阪急電車

著者 :
  • 幻冬舎 (2008年1月1日発売)
4.11
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本棚登録 : 9219
感想 : 1692
5

──電車の中でのさりげない一言があなたの人生を変える。

わずか十数分間の出会いは偶然か必然か。毎日淡々と続く電車内での日常。
ふとしたことがきっかけで、今まで何の関わりもなかった乗客同士が会話を交わすことに。
互いに相手のことを詳しく知っているわけではない。でも──。
その何気ない言葉が、勇気をあたえ、新しい一歩を踏み出させてくれる。
電車の中でのささやかな出会いによって織り成される世界、紡がれる言葉が生み出すハートウォーミングストーリー。
是非、多くの方々に読んでもらいたいお薦めの作品。
(もう、すでに多くの方が読まれているのでしょうが。未読の方は是非!!)

有川浩作品二作目。私は遅すぎるほどでしたが、やはり間違いなかった。
喜び、恥じらい、切なさ、悲しさ、悔しさ、そんなものがたくさん詰まった人々のエピソード。
そのエピソードは、心通う大切な友人から届いた贈り物のように、ふと幸せな気持ちにしてくれる。

阪急電車今津線。
同じ電車に乗り合わせた人たちの様々な思いが、一駅ごとに交差し、絡まりあう。
その展開が見事で、実にさらりと爽やかに話が続いていく。
図書館で時々見かける、自分と同じ嗜好の本を読むかわいい女性。
その女性と偶然同じ電車に乗り合わせ、しかも彼女が隣の席に座る。
川に架かった鉄橋を渡るとき、突然彼女が後ろを振り向き、窓の外を見る。
そこには“生”という字が石を積んで造形されていた。
それをきっかけに、思いがけず彼女に話しかけられ、会話が弾む。
──そして彼女が降りる駅にさしかかったときの一言。
「次会ったとき、一緒に呑みましょうよ」
“え、次なんて言われても“ ”いったい何処で“ と戸惑う男性に彼女が続けて放った驚きの言葉。
「中央図書館。よく来てるでしょう。だから、次に会ったとき」
──男は自分だけが彼女を意識していたのかと思っていたらそうではなかったのだ。
もう、この台詞一発で「胸ぐらを摑まれた」じゃなかった、「首根っこを摑まれた」でもなかった、ハートを摑まれました。
高橋源一郎風に評するなら「完璧!!」
その他の次から次へと駅ごとに出てくるエピソードも、笑いあり、涙ありで読者の心を放さない。
それでも、「そして、折り返し。」までの行きの電車だけで物語が完結していたら、ここまで心響くものにはならなかっただろう。
「ああ、ほんわりした気持ちのよい小説だなあ」と感慨にふける程度の読後感だったと思う。
この小説の懐の深さは、「そして、折り返し」から続く、その後の話の展開に尽きる。
その後の彼、彼女、或いは様々な登場人物たちは、時が経ち、季節を越えてどうなったのか。
その展開が、時を経た帰りの電車の中で深く描かれているところにこの小説の醍醐味がある。
勇気を持って踏み出した一歩が、けして無駄ではなく、明るい未来に向かって駆け出すきっかけの一歩になったという内情が語られる。
人生はこんな簡単にうまくいかないだろうけれど、それでも、後日談とも言うべき、その後のみんなの話は未来に希望を抱かせてくれる。

各々のキャラクターの百人百様のそれぞれ異なった個性もなんと魅力的なことだろう。
殊にベタ甘なおばあさんかとおもいきや、孫にしっかりと躾や規律を教える時江さんのキャラが粋だ。
というよりも、全編の主人公のキャラがみんな最高なのだ。
久々に心震える物語に出会った。
文庫化されているので、是非購入し、手元に置いておきたい一冊だ。
映画化もされているようだが、映画を観ても間違いなく感動してしまうだろうという確信がある。
もう今からでもレンタル屋さんにDVDを借りに行きたい気分。
うーん、ホントに借りに行きたい。雨さえ降ってなければなあ……。
それほど素晴らしい作品でした。
こんな話を創り出せる有川浩さんに脱帽。

(追記)結局我慢できずに、レンタル屋さんに在庫を確認し、この雨にもかかわらず、今DVDを借りに行って帰ってきたところです(笑)
旧作じゃなく準新作だったので100円ではなかったけど、これから観るのが楽しみ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 有川 浩
感想投稿日 : 2012年6月16日
読了日 : 2012年6月16日
本棚登録日 : 2012年6月16日

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コメント 5件

honaoさんのコメント
2012/06/16

そのとおり! 私が思っていたことを見事代弁してくださったようなレビューで嬉しいです。ありがとうございます(*^_^*)

私は文章が拙いので、いつもレビューはあっさりめ。簡単に書いておけば、後で、それを読んだ時の気持ちが何となく思い出せればいいなという程度です。
ブグログは昨年半ばから始めましたが、それ以前に読んだ本については、読み終わってすぐの気持ちを大切にしたいので、あえて後付けなし。(と言えば聞こえはいいのですが、本当は記憶があやふやだったりもします。)
koshoujiさんは昔に読まれた本の記憶も鮮明にレビューされているので感服しています。

『阪急電車』は私の大好きな作品のひとつです。
私は大学時代、この「今津線」で通学していたので、電車や風景が目に浮かぶようだし、ノスタルジーに浸ったりもし、余計に魅了されるのかもしれません。

まろんさんのコメント
2012/06/16

大好きな『阪急電車』、お気に召してほんとによかったです(*'-')♪

私のほうのレビューにつけてくださったkoshoujiさんのコメントが
スマホだと読めるのに、PCにはなぜだか反映されないので、こちらのほうにお返事を♪

まずは、瀬尾さんの『僕らのごはんは明日で待ってる』に書いてくださったコメントへのお返事コメントを
うれしくてものすごく長々と書いてしまったので、
書いた後で、しつこいやつめ!と引かれてしまわないか、実は心配になっていたりして、
『阪急電車』にコメントいただけて、ほっとしました(笑)

時江さん、素敵ですよね!
節度ある態度で、言う時にはピシッと言える、あんなおばあさんになりたいものです。
「絹」の字が読めないのに、彼女の不安はしっかり読み取れる悦子ちゃんの彼氏とか
胃痛で電車を降りた康江さんに、降りる駅でもないのに付き添って、お水まで買ってくるミサちゃんとか
好きにならずにいられないような人ばかり。

映画も、原作と細かい部分は違ったりしていますが
役者さんもイメージ通りで、温かい作品に仕上がってます(*^_^*)
征志とユキのエピソードだけ、別バージョンになってるのが残念なんですが。。。

それにしても、『夜の国のクーパー』がもう借りられるなんて、都会ですね!いいなあ。。。
私の利用してる図書館では、まだ購入もされてないありさまです(ノ_・。)

jardin de luneさんのコメント
2012/06/17

私、この本を読む前から(映画も見ておらず内容も知らないのに)絶対おもしろいとおもっていました。
たまたま読む前に妹に先に貸したのですが、「絶対おもしろいよ、読んでないけど」って言ったら笑われました(笑)
でも予想通り。大好きな本です。

まろんさんのコメント
2012/06/17

「コメント大歓迎」とのコメントをいただいて、浮かれてまた登場してしまいました!

まっさらの「夜の国のクーパー」に、「シアター!」
まで届くとは!
koshoujiさんのふだんの行いの良さを如実に表してますね(*'-')

koshoujiさんが「阪急電車」に、胸ぐらじゃなくて、首根っこじゃなくて、
ハートを掴まれてくださって、ほんとによかったです(笑)
これから読まれるであろう、有川さん作品のレビューが読めると思うと、ワクワクドキドキです♪

「夜の国のクーパー」と「シアター!」のレビューも、手ぐすねひいてお待ちしています(笑)

店主さんのコメント
2012/12/23

花丸をいただきありがとうございます。
私も遅ればせながら…ですが、良い作品との出会いに満足しました。
そして、原作とのギャップが少し怖いですが、DVDも観てみたいです。

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