──電車の中でのさりげない一言があなたの人生を変える。
わずか十数分間の出会いは偶然か必然か。毎日淡々と続く電車内での日常。
ふとしたことがきっかけで、今まで何の関わりもなかった乗客同士が会話を交わすことに。
互いに相手のことを詳しく知っているわけではない。でも──。
その何気ない言葉が、勇気をあたえ、新しい一歩を踏み出させてくれる。
電車の中でのささやかな出会いによって織り成される世界、紡がれる言葉が生み出すハートウォーミングストーリー。
是非、多くの方々に読んでもらいたいお薦めの作品。
(もう、すでに多くの方が読まれているのでしょうが。未読の方は是非!!)
有川浩作品二作目。私は遅すぎるほどでしたが、やはり間違いなかった。
喜び、恥じらい、切なさ、悲しさ、悔しさ、そんなものがたくさん詰まった人々のエピソード。
そのエピソードは、心通う大切な友人から届いた贈り物のように、ふと幸せな気持ちにしてくれる。
阪急電車今津線。
同じ電車に乗り合わせた人たちの様々な思いが、一駅ごとに交差し、絡まりあう。
その展開が見事で、実にさらりと爽やかに話が続いていく。
図書館で時々見かける、自分と同じ嗜好の本を読むかわいい女性。
その女性と偶然同じ電車に乗り合わせ、しかも彼女が隣の席に座る。
川に架かった鉄橋を渡るとき、突然彼女が後ろを振り向き、窓の外を見る。
そこには“生”という字が石を積んで造形されていた。
それをきっかけに、思いがけず彼女に話しかけられ、会話が弾む。
──そして彼女が降りる駅にさしかかったときの一言。
「次会ったとき、一緒に呑みましょうよ」
“え、次なんて言われても“ ”いったい何処で“ と戸惑う男性に彼女が続けて放った驚きの言葉。
「中央図書館。よく来てるでしょう。だから、次に会ったとき」
──男は自分だけが彼女を意識していたのかと思っていたらそうではなかったのだ。
もう、この台詞一発で「胸ぐらを摑まれた」じゃなかった、「首根っこを摑まれた」でもなかった、ハートを摑まれました。
高橋源一郎風に評するなら「完璧!!」
その他の次から次へと駅ごとに出てくるエピソードも、笑いあり、涙ありで読者の心を放さない。
それでも、「そして、折り返し。」までの行きの電車だけで物語が完結していたら、ここまで心響くものにはならなかっただろう。
「ああ、ほんわりした気持ちのよい小説だなあ」と感慨にふける程度の読後感だったと思う。
この小説の懐の深さは、「そして、折り返し」から続く、その後の話の展開に尽きる。
その後の彼、彼女、或いは様々な登場人物たちは、時が経ち、季節を越えてどうなったのか。
その展開が、時を経た帰りの電車の中で深く描かれているところにこの小説の醍醐味がある。
勇気を持って踏み出した一歩が、けして無駄ではなく、明るい未来に向かって駆け出すきっかけの一歩になったという内情が語られる。
人生はこんな簡単にうまくいかないだろうけれど、それでも、後日談とも言うべき、その後のみんなの話は未来に希望を抱かせてくれる。
各々のキャラクターの百人百様のそれぞれ異なった個性もなんと魅力的なことだろう。
殊にベタ甘なおばあさんかとおもいきや、孫にしっかりと躾や規律を教える時江さんのキャラが粋だ。
というよりも、全編の主人公のキャラがみんな最高なのだ。
久々に心震える物語に出会った。
文庫化されているので、是非購入し、手元に置いておきたい一冊だ。
映画化もされているようだが、映画を観ても間違いなく感動してしまうだろうという確信がある。
もう今からでもレンタル屋さんにDVDを借りに行きたい気分。
うーん、ホントに借りに行きたい。雨さえ降ってなければなあ……。
それほど素晴らしい作品でした。
こんな話を創り出せる有川浩さんに脱帽。
(追記)結局我慢できずに、レンタル屋さんに在庫を確認し、この雨にもかかわらず、今DVDを借りに行って帰ってきたところです(笑)
旧作じゃなく準新作だったので100円ではなかったけど、これから観るのが楽しみ。
- 感想投稿日 : 2012年6月16日
- 読了日 : 2012年6月16日
- 本棚登録日 : 2012年6月16日
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