冒頭───
スカイツリーが浅草の青空をひと突きしている。
四月とは思えないほど激しい風がフェリーのガラス窓を強く打ったが、富田宝子の高まる期待は少しも損なわれない。もうすぐ、もうすぐあの建物が見える───。勝鬨橋をくぐってすぐの古びた五階建てマンション。その最上階。
水上バスで通勤だなんて『ワーキング・ガール』のスタン島からフェリーでNYに通うメラニー・グリフィスみたいでちょっと素敵かも、と思っている。お気に入りのリバティプリントのワンピースが視界にお花畑を作っていた。レース編みのニット帽がずり落ちそうになり、慌てて頭を押さえる。
浅草にある玩具メーカーの商品企画室に勤めるおもちゃプランナー宝子の恋とおもちゃへの憧れを描いた連作短編集。
初出は2012年の「ミステリーズ!」に連載されたもの。
柚木さん特有の乙女チックな少しねっとりした作品だ。
「ミステリーズ!」に掲載されただけあって、多少推理物的な要素もあるが、それはお遊び程度のもの。
柚木さんの描く若い男は、いつもヘタレ風が多い。
この作品に登場する宝子の片想いの相手デザイナーの西島もその例に漏れない。
さあ、ストーカー並みに想いを寄せる宝子の恋の行方はどうなる? というところが読みどころか。
まあ、軽く読める小品でした。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
柚木 麻子
- 感想投稿日 : 2014年8月20日
- 読了日 : 2014年8月20日
- 本棚登録日 : 2014年8月20日
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