『ぼくのエリ』に通ずる、美しさや静けさが在るのだと、思った。ネタバレをちょこちょこ挟みます。
可憐な少女・エレノア、その母・クララ。クララの艶やかさは、男性を次々に虜にしていく。魔性の女と言われる存在がぴったり当てはまるだろう。
美しい親子。しかしながら彼女たちはヴァンパイアであった。百はとうに超えており、彼女たちの行く手をほかのヴァンパイアたちが阻む。
というのも、この世界ではヴァンパイアは男性だけの特別な存在であり、女性のヴァンパイアは存在してはならないという取り決めがあったのである。
とはいえもろもろの事情があってクララはその存在を許されて生きていたのだけれども、哀しきかな愛しいエレノアに『ある事件』が起こり、クララはエレノアをヴァンパイアにせざるを得なくなってしまう。新しくヴァンパイアを生み出すこと、しかもそれが女性であったということ、それは許されざることであり、かくしてクララはエレノアとともに各地を転々としなければならなくなったのである。
所謂、過保護ともとれるクララの愛情だけれども、それを若干、エレノアは疎ましく思っていた。
あるとき訪れた町で、エレノアは学生として生活していく。クララはといえば、出逢った男性・ノエルがすたれたホテルを経営していることを知り、ノエルを口説き落として売春宿として生計を立てることに決める。
ノエルはというと、気弱であり優しくもあり、クララをとてもとても好いていた。だから彼女が売春をおこなうということに幾分か哀しんでもいた。
エレノアはどうかといえば、フランクという病弱な青年と出会い、恋に落ちていた。
フランクは白血病をわずらっており、余命いくばくもなかった。儚さに満ち満ちているフランクに、少なからず共感を覚えるエレノア。
ヴァンパイアであることはひとではないということで、嘘をついて生きていかなければならない。嘘をつきつづけるのはつらくて哀しくていやでいやで、そんなエレノアはノートに自伝じみた半生をつづっていた。
それをフランクに見せることによって、波紋が広がっていく。
それは折しも教師陣の目に触れ、ある人には絶賛され、ある人にはよもや精神病ではないかと疑われ、そして人間にヴァンパイアの存在を知られるということはつまり追っ手に感づかれるということで、クララは教師陣を手にかける。
すべてはエレノアのため。愛する娘には生きていてもらいたいから。
フランクを殺さねばと走るクララ。
その際に、ノエルを誤って殺してしまう。というか事故なのだけれども。古いエレヴェーターは怖いですね。
エレノアはエレヴェーターに閉じ込められ、泣き叫ぶ。このままではフランクが死んでしまう。
フランクの元へとたどり着いたクララ、殺そうとしたそのとき携帯電話に着信がはいる。
追っ手どもがエレノアの元へ訪れたのだ。
クララは叫びながら走る。このままではエレノアは連れ去られてしまう。愛しい娘が。そしてたぶん殺されてしまう。
追っ手の中には、クララがヴァンパイアになる前にときめいていた男性がいた。彼の名はダーヴェル。
ダーヴェルと対峙するクララ。ダーヴェルにより、今まさにかっさばかれるクララの首、というところで、ダーヴェルは逆に仲間の首をかき切る。
なんだかんだいっても、淡い恋心をいだいた彼女、そして自分のせいで彼女はヴァンパイアになってしまった。
自分の上司のせいで彼女は売春宿に身をやつし、くずおれて、男たちを憎みながら生き続ける羽目になってしまった。そのくせずぅっと売春という男性と深くかかわり続ける仕事をしていることから、クララの男性に対する憎しみが見て取れる。
クララは、助けてくれたダーヴェルを見つめる。
もう一度、信じてもよいものなのだろうか、と。
全面に押し出されていたエレノアがかすみ、クララの物語として締めくくられる。
子離れができなかったクララ。
親と子でも、生き方は別々だ。愛しいひとができたから子離れをかんがみた。
そしてエレノアはフランクをつれて、ヴァンパイアへとなりえる古い古い島へと訪れ……。
というところで物語は終わる。
親離れ子離れという観点でいえば、日本よりも海外のほうが早いと言う。
『ビザンチウム』は、日本のような親離れ子離れができていない母と娘を書いたようにも見える。
が、最後の最後で、彼氏ができたからわたしはそっちと生きていくわ!って、脳味噌からっぽなシングルマザーかてめえは。わけがわからないよ!
いやいやシングルマザーを責めているわけではないし、世の中には立派に子供を育てているシングルマザーの方もいらっしゃるのは重々承知しておりますけれども、この寄りかかる気、寄生する気満々な一握りのシングルマザーを思い立たせるようで、どうにもいらいらしてしまったのです。
ある種の絵とも取れる美しい雰囲気が最後にどっかりとぶち壊された気がして、哀しくなってしまいました。いやまあ子離れってわかる、ん、だけれど、二百年も男性なんてペッペッといってきたのに、うううん。
エレノアがフランクの血にまみれたハンケチーフを口に含んだところがそれはそれは綺麗できゅんとしました。
- 感想投稿日 : 2014年10月14日
- 読了日 : 2014年10月14日
- 本棚登録日 : 2014年10月14日
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