海 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年3月2日発売)
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本棚登録 : 2946
感想 : 300
4

ああワタシ、小川洋子さん作品の読者として初心者だなぁ。
と、あらためて思ってしまった。

お年始参りに親戚の家へ電車で往復約3時間。
その時にお供として持って出たのがこの本。
薄いし短編集だし、読むのが遅くてもほぼ読みきれるだろうと。

とんでもない。初心者ならではの誤算。
もう、一篇目の表題作『海』から、流れる時間がとてもゆっくりになった。
ゆっくりゆっくり、文字を追い、光景を思い浮かべ、気付けばその世界の住人になっている。

小さな弟の奏でる架空の楽器「鳴鱗琴」・皺くちゃの50シリング札・蝶のように活字を探す手の動き・きらきら光を反射するかぎ針・カタカタと鳴るドロップ缶・様々な抜け殻とふわふわひよこ・不完全なシャツ屋に、記憶の題名屋。

見た事のあるものも、見た事のないものも、すべてそこにある。
小川さんの書く世界は不思議だ。

「温かいのか冷たいのか、よく分かりません。心地よく温かいからか、あるいは逆にあまりにも冷たいからか、いずれにしても感覚が痺れてしまっているようなのです。」(80ページ)
以前から小川作品に感じていた温度はまさにこれ。
温かいような、ひんやりとしているような、でも振れ具合はどちらも激しくはなく、まるで人肌のよう。

時折、無性に、この体温のような世界に浸りたくなるのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小川洋子
感想投稿日 : 2014年2月4日
読了日 : 2014年2月1日
本棚登録日 : 2014年2月4日

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コメント 6件

vilureefさんのコメント
2014/02/04

こんにちは。

わかります。全くの同感。
小川洋子さんの本を開くと、ずっぽりとその世界観にはまってしまって抜けだせなくなります。
そして毎度毎度、そのなかで迷子になったような気分になります。
なかなか進まない自分にもどかしくもあり、それが小川洋子だ!と思ってみたり(笑)

nejidonさんが、「さらりと読み終わります」とレビューで書いてらっしゃいますね。
無理です!!(^_^;)
まだまだ修行が足りない私です。

nejidonさんのコメント
2014/02/04

九月猫さん、こんにちは♪
vilureefさんに呼ばれたような気がして、飛んできましたよ~(笑)
でもね、でもね、ホントだもん!
ホントにさらりと読み終わったんだもん!
うぉ~ん、うぉ~ん、うぉ~ん。
あ、これはお得意の嘘泣きですからね。うほほほ!

小川洋子さんのスタンスがとてもとても好きなのですよ。
マイノリティーな存在を描くのがそれはお上手で。
無理にでも現実世界に引っ張り挙げようと励ましたりもせず、「彼らの深部をえぐろう」なんてイケズなこともせず、ただただ傍にそおっと寄り添っている。
彼らと同じものを見て、同じように感じている。
その温かい眼差しがたまらなく好きなのです。
なので、なんの疑問も抱かずに、するっと読めてしまうのです。
迷子にはなったことはないです(笑)
心地よく酔っていれば良いので。
小川洋子さんが苦手だという友人もいて、「なんでこんなこと書くんだろう?」って本気で悩んでましたけどね。

こんな私ですが、苦手な作家さんだと遅々としてページが進みません。
そうです、なんでこんなこと書くんだろうって悩むからです。

九月猫さんのレビュー、素敵です!
不思議ワールドにハマった感が良く出ています。
ぜひ次なる小川さんの作品にも、チャレンジしてくださいませ!

九月猫さんのコメント
2014/02/05

vilureefさん、こんばんは♪

そうなんです!小川作品、世界にずっぽりとはまりますよね!
vilureefさんは、
『世界から抜け出せなくなって、迷子に・・・』って感じなのですね。
キケンですよね、小川作品(笑)
ワタシの場合は、その世界から出たくなくなって、
わざと迷子になって留まろうとする感じ、かなぁ。
迷い道を楽しんだ上にまだ、出口までまっすぐな道に出ても、
グズグズと左右の壁を撫で回してたりみたいな(笑)
やっぱりキケンですね、小川作品(^-^;)

そんななので、読むのに時間がかかって(かけたくて)わたしも「さらり」とはいきませんねぇ。
ぜひとも修行、ご一緒させてくださいませ(≧∇≦)人(≧∇≦)

九月猫さんのコメント
2014/02/05

nejidonさん、こんばんは♪

嘘泣きまで披露してしまう小川さん愛に充ちたコメント、楽しいです(*´∀`)ノ

小川さんのマイノリティを描くスタンス、本当にいいですよね。
描かれているマイノリティにも人であれ物であれ、心惹かれます。
読んでいると、読んでいる自分はマイノリティ側に同化しているのか、
寄り添っている語り手に同化しているのか、わからなくなります。
温かいと思えばひんやりとして、近くにいると思ったらするっとすり抜けられて。
もっと浸っていたい、もう少しもう少し・・・と思った瞬間に現実に追い返されるのに、
突き放された感じはなくて、ヘンに温かさと穏やかな静けさが残る。

うーん、うまく言い表せませんね。とにかく不思議で仕方のない世界と空気です。
居心地が良くて、いつまでも浸っていたくて、vilureefさんへのお返事にも書いたように
やはりワタシも「さらり」とは読めないです(^^;)

この本の解説に書かれていた「注文の多い注文書」がタイミングよく出たので、
今はそちらを読んでいますが、もったいなくて毎日ちびちび読んでいます(笑)

cecilさんのコメント
2014/02/11

九月猫さんこんばんわっ!
久しぶりに九月猫さんの本棚に遊びに来たら、素敵なレビューと本が新しく登録されていてウキウキしております。

そして、私は海や雪などがテーマの本は素通りが出来ないのですが、この作品の存在を新たに知ることが出来て嬉しいです。
ぜひ読んでみたいです!
しかも、不思議な世界観のお話もあるようでとても気になります。

ちなみに作品の評価が★4つですが、九月猫さんが★をひとつ減らした理由が気になります♪
私も評価はその時の気分で直感的につけてしまうのですが他のレビュワーさんはどのような基準で評価されているのか気になる今日このごろです。

九月猫さんのコメント
2014/02/13

cecilさん、こんばんは♪

海といえば、cecilさん!
cecilさんといえば、海! ですものね(*^ー゚)b

他の方も書いていらっしゃいますが、マイノリティの描き方がとても素晴らしくて、
寄り添う視線は、優しいのにちょっとひんやりともしています。
そういう小川洋子さんの世界がお好きそうなら、ぜひぜひ手にとってみてくださいまし♪

☆4つなのは、2つ目のお話がいろんな意味で「そりゃないよw」だったのと、
ラストのお話が「いいお話」だけど余韻が残らなかったのが理由です。
好きなお話なのですが、ラストだと物足りない感じで。
うっすら溜まった毒を中和するのにはラストに持ってくるのがいいお話なのでしょうが、
その毒をワタシは中和されたくなかったので(笑)

とかいろいろ言ってみましたが、☆のつけかたはワタシも直感的です(笑)

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