李歐 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1999年2月8日発売)
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感想 : 585
4

もの至極スケールのでかいヒューマンドラマ。
広大な大地、鮮やかな淡紅色の桜の束が
ありありと目前に広がっているかのような美しい描写。
それでいて闇の世界の冷酷と愛惜がシビアに、
また生々しく描かれている。

身の毛のよだつスリル。顔を背けずにはいられない残虐。
体の内の内の内側のやわらかな部分が焼け焦げるような情愛。
読みすすめる間、終始五感がざわついていた。


何が生か何が死か、何が惡か何が善か。
それを決めるのは社会でも国家でもない。
死をも畏れぬ激しい個の情念だ。


国家のしがらみを越え、数々の人間の思惑を越え、
時を越え、性別を越え…二人の男が
肉体と肉体、魂と魂を強烈に響き合わせる
モザイクなしのリアルに、強く胸を打たれた。


地球上にたった一人でいい。己の全霊を捧げたい。
魂ごと重なって、混ざり合いたい。
己がその渦に溶けてなくなってしまってもいい。
ひとつになりたい。

心の底からそんな風に思えるパートナーに出合うということ。
これほどまでに生きるしあわせがあるだろうか。

魂が欲するところのものに忠実に、純粋に、
身命を賭して生きること。
それはおそろしいほどに美しい人間のエゴではないかと
拙者は思う。

とにかく読み応えのある一冊でし。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2010年11月21日
読了日 : 2010年10月16日
本棚登録日 : 2010年10月16日

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