激戦の奉天会戦の奇跡的な「勝ち」と同時にすかさず停戦交渉に入る大山巌、児玉源太郎。バルチック艦隊が対馬海峡を通るか、太平洋ルートをとるか動揺する真之ら幕僚たちにも動じない東郷と、政府は嘴をはさまないという主義をとって、断固東郷の判断を支持する山本権兵衛。鉄の腸のごとき胆力と、晴天のような聡明な知見をもった明治の軍人、政治家たち。そして昭和9年まで「国家機密」という厳命を守りぬいた、「敵艦見ゆ」の主人公である宮古島の漁師たちのごとき、当たり前のように国家に報じようとする庶民。国家の一員として純粋に従前たろうとしなければ、こういう強さとすがすがしさを持ちえることができないのだろうか、と現代の私もついつい思ってしまう。どうしても昭和の暗い過去があってそういう価値観を賛美しにくいのだが、同時に今のような自分さえよければというのも行き詰まりを感じるし。面白いだけでなく明治の精神に触れさせてくれる本書はやはり不滅の名作だ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2011年9月8日
- 読了日 : 2011年9月8日
- 本棚登録日 : 2011年9月8日
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