雨の朝パリに死す 改版 (角川文庫 赤 155-2)

  • KADOKAWA (1968年11月1日発売)
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感想 : 9
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「カットグラスの鉢」
「冬の夢」
「罪の赦し」
「金持ちの青年(リッチ・ボーイ)」
「雨の朝 パリに死す(バビロンに帰る)」
の5篇を収録した短編集。

全体を通して、どこか寂しさが漂う物語。
個人的には「冬の夢」「金持ちの青年」が感慨深い。
どちらも金持ちと恋人の関係が焦点の物語だが、どちらも時の過ぎた悲しみといざとなった時の金の無力さをよく表しているように思えた。
以下「金持ちの青年」より引用。
『晩餐までブリッジをやり、それから誰かの部屋で生のカクテルを四、五杯やって、愉快にでたらめな一晩をすごす。』(中略)『女をそばにひきつけておく手、邪魔になれば追っ払う手を心得ていたし、おれたちの利口な快楽主義からすれば、どの女にはどの程度の考慮を払ってやればいいかぐらいは心得たものだ。パーティーなんてものはほどほどにしておくものだ――しかじかの女をしかじかの場所へ連つれていき、楽しい思いをしただけの金を使えばいいのだ。酒も、たくさんはいけないが、まあころあいだと思う量よりちょっとよけいにやって、午前をまわった適当な時刻を見計らって立ち上がり、もう家へ帰ると言えばいい。学生、大酒飲み、将来の約束、喧嘩、一時の感傷、無分別などは避けること。そういうのが上手なやり方というものだ。それ以外はすべて浪費というものだ。』
禁酒法などがあった当時の時代背景を意識しながらのこういう金持ちの日常の一瞬というのは、今とは確かに大きく異なるところもあるだろうが、最後の上手なやり方、それ以外は浪費、という流れには、巧い言葉が見つからないが、身につまされた様な、そういう風に思わされたことに、とても驚いた。
本書は解説部分もとても面白い記述があり、いい読書だった。村上春樹も幾つかの翻訳本を出しているみたいなので、いつか比較して読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2015年10月27日
読了日 : 2015年10月22日
本棚登録日 : 2015年10月20日

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