表題作「移動動物園」他「空の青み」「水晶の腕」二篇。
数少ない労働を題材に描かれる青春小説。
いずれも主人公は20代前半から半ばほどと思われる。三者三様の仕事(動物の飼育と動物のお披露目、マンションの雇われ管理人、大きな工場での手作業)と、仕事を通しての人との繋がり、瞬間が息づいている。暑い夏の空の色や茂った雑草の匂いとか滴る汗の流れ方まで、描写が精緻。文学のテーマに暴力がブームの時代があった当時の残滓が香る。
解説では、作者と同じ時代に育った村上春樹との対比が記されており、なかなかに面白かった。彼は、主人公を汚さない、お洒落な描き方をしているのに対し、作者は、泥臭く、どこか陰気な、静観したところがある、といった様な内容だった。
「水晶の腕」が好み。
自衛隊やあんちゃんと呼ばれる男はじめ、他の仕事仲間とのやり取り、最後のピンク映画を見る場面なんかはそこに発せられる空気が物憂げしくもあり惰性的な生き方が描かれており、個人的には印象深い場面で、とても良い。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2015年12月5日
- 読了日 : 2015年10月14日
- 本棚登録日 : 2015年10月14日
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