ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~ (メディアワークス文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2011年10月25日発売)
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本棚登録 : 18706
感想 : 1911
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小学生の頃、公団の集合住宅に家族四人で住んでいた。
居間と夫婦の寝室と、弟と兼用の子供部屋があるだけの間取りだった。
当然、書斎などというスペースが取れるはずもない。
父はある日突然、僕ら兄弟のマンガや学習雑誌がある本棚に自分の蔵書を置き始めた。蔵書と言っても、仕事関係の業界紙と文庫本がいくらかあるだけだったが、いままで見たことがない新鮮な光景だった。
興味本位で文庫を一冊手に取ってみた。
『限りなく透明に近いブルー』
不思議なタイトルと美しい表紙に惹かれたからだが、1、2ページめくって後悔した。見てはいけない物を見た気がした。
過激な性描写があったからという訳ではない。普段くだらない冗談ばかりを言っている父の知らない一面を見た気がしたからだ。
それから二度と父の本に触ることはなかった。

その後、訳あって父とは離れて暮らすこととなる。
父のようにはなるまいと思った。いまでも会うことはない。

当時、読書感想文が大の苦手だった。
原稿用紙に本のタイトルを書いて「おもしろかったです。」
その後に何を続ければ良いかが全く分からなかった。
結局、苦労してあらすじをなぞってどうにかお茶を濁すだけだ。
本当に面白いと思っていたが、それ以外に何が必要なのかずっと疑問だった。次第に本からも遠ざかっていった。

皮肉なことだが、システマティックな勉強から離れて、初めて読書や「学ぶ」ということの面白さが分かった。
どんな本でも好き勝手に読めばいいと思う。
狂気の物語は狂人が書く訳ではない。むしろ常識や倫理という軸足がなければ狂気までの飛距離は測れない。
本や映画やマンガやゲームなど創作物自体が問題視されることがあるが、それはフィクションをきちんと楽しむ下地を育てない環境のほうに問題があるのだろう。

高校時代の恩師のおかげで本に興味が湧いた。
大学に入って、正門前の書店のフェア台で『限りなく透明に近いブルー』を見つけた。次第に読書量が増えていった。
そして気がつけばいつの間にか、くだらない冗談ばかり言って本を読む大人になっていた。

『ビブリア古書堂の事件手帖2』は本を巡る親と子のはなし。
今回も本と物語のリンク具合、そして伏線がいい。
福田定一『名言随筆 サラリーマン』が秀逸。

今回の栞子さんの物語が、前後編の前編であればいいと思う。
そして後編があれば、それは「許す」物語であってほしい。

(まさか、気になっていた『国枝史郎』が登場するなんて。そろそろ読まなければ!)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ(国内)
感想投稿日 : 2013年1月17日
読了日 : 2013年1月16日
本棚登録日 : 2013年1月16日

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コメント 2件

まろんさんのコメント
2013/01/17

kwosaさん、こんにちは!

お父様とのことを書かれた前半に惹き込まれて読み進めていて、最後の
そして後編があれば、それは「許す」物語であってほしい。
という一文で、涙が溢れました。
数十行のレビューなのに、お父様の蔵書に「見知らぬ父」を見て慄いた少年が
いつしか本を愛する青年になり、そしてこの本の栞子さんにも
母を許せるひとであってほしい、と願う大人へと成長していく過程を
古いフィルムの中で、カタカタとコマ送りで見ているようで。

3冊目は、栞子さんの心が、もっともっと動いて、劇的な展開も待受けていますので
存分に楽しんでお読みになってくださいね!

それにしてもkwosaさんが読書感想文の苦手な男の子だったなんて
今の心ゆさぶるレビューからは想像もつきません。
作文の苦手な小学生にこのレビューを読ませたら、
ふつふつと希望が沸いてくるかもしれませんね♪

kwosaさんのコメント
2013/01/18

まろんさん!

コメントありがとうございます。

本を読み終えて思いつくままに書き連ねていったら、こんな文章になってしまいました。
「なんでこんなこと書いちゃったんだろう」
「ちょっとカッコつけ過ぎじゃないか」
後悔の念に襲われ、もっと別のことを書こうと本をパラパラと読み返しました。
しかしその時、アントニイ・バージェスのあの言葉が!

『わたしたちは書いたものを削除することはできる。しかし、書かなかったことにすることはできない』

「うわっ」
あまりにも出来過ぎたタイミングというか、本の魔力というか......
でも、本を読んでいるとたまにこういうことがありますよね。
おもいっきり『ビブリア古書堂』にはまっちゃっていますね。

たったいま、3冊目も読み終えました。
新刊が待ち遠しいです。

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