何者

著者 :
  • 新潮社 (2012年11月30日発売)
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本棚登録 : 9296
感想 : 1566
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ブクログで花丸が欲しいんです、僕。

twitterのプロフィールをみれば、その人が『何者』かがわかる。
いや、他人から『何者』にみられたいのかがわかる。
アイコン画像に何を選ぶのか。名前は漢字表記かカタカナ表記か、それともアルファベットか。
個人情報にどう優先順位をつけ、どの順番で提示するのか。
誰との、どの団体とのつながりを強調するのか。

その他諸々に個性が、いや「個性」と思われたい物が反映される。
物語の人物紹介として、そのプロフィールを最初のページに持ってきた仕掛けにどきどきする。
『桐島、部活やめるってよ』を書いた朝井リョウだ。ただで済む訳がない。

なーんて、したり顔のレビューを書こうと思っていた読み始めの頃の自分を、過去に戻ってぶっ飛ばしてやりたい。傑作。
これはもうサスペンス、いやスリラーだ。
この本を読んだ後にレビューを書くのは本当に恐ろしい。

WEBテストもエントリーシートもなかった時代の人間だが、就職活動で感じる葛藤や緊張感は道具立てが変わっても、何ら変わりはない。ひりひりするような感触を味わった。
でも、それだけじゃない。就職活動を題材にした、ただの青春小説だと思っていたら痛い目を見る。
学生時代にこの本に出会いたかった。
でも、あの頃の僕はこの本のメッセージを逃げずに正面から受けとめることが出来ただろうか。あまり自信はない。

読み終えてみれば、誰のスタンスも誰の見方も間違ってはいない。
正解なんて本当にわからないのだ。
ただ確かなのは、頭のなかの傑作や百点よりも、体を動かした駄作や十点を積み上げなくてはいけないということ。
そして、またまたこういうレビューを書いちゃう自分のかっこ悪さを認めた上で「やっぱり書くもんね」ということ。

結局、拓人は仲間に恵まれていると思う。大丈夫だ。
光太郎やサワ先輩、瑞月さんにバイトの後輩。
もちろん、隆良や理香さん、ギンジにだって。
一度は本気でぶつからなければならない時がある。
そうでなければ、それこそ室内でチノパン穿いているようなものだ。

ひさびさに胸に刺さる本だった。
いつも心に『何者』を。
ブクログで、いや人前でも花丸が欲しくなったら、この本を読み返そうと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(国内)
感想投稿日 : 2013年4月3日
読了日 : 2013年4月3日
本棚登録日 : 2013年4月3日

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コメント 4件

まろんさんのコメント
2013/04/03

kwosaさん!

1行目を見たから、花丸をつけたんじゃありませんよ?!
この本を読んで
「う~ん、この本のレビューって、書く内容より、
書くという行為自体がレビューになっちゃいそうでキツイなぁ」
と、うんうんうなりながら半端なレビューを書いてしまったので
そんな気持ちも全部代弁しつつ、素晴らしいレビューを書いてくださったことへの
掛け値なしの花丸です。

今どきの就活は大変だなぁ、なんて他人事のように読み始めた小説が
後半に近づくにつれ、就活小説でも青春小説でもなくなって
お前は何者だ? 何者かになり得たのか?
と突きつけられ、身が縮むようで。

でも、何につけても「花丸がほしい!」と願う気持ちは卑しくなんかなくて
なりたい自分に近づくための原動力ですよね。
私も、拙くてもレビューを書いて、悪あがきし続けます!

山本 あやさんのコメント
2013/04/04

kwosaさん、こんにちは[*Ü*]

朝井リョウさんの本は、何冊か買って積読していて
すごくステキな本なんだろうなぁと思ってたんですが、
「何者」はまだ買ってなくて。
もぅ、絶対買います!

朝井さんはタイトルからして、ひっかかりを作ったり
んんん??って思わせる力もすごいですよね。
読む前からドキドキしちゃう「何者」へのステキな
導入をありがとうございます[*・ー・*]

kwosaさんのコメント
2013/04/04

まろんさん!

花丸とコメントをありがとうございます。

日常の行動の原動力が、自分のため、そして誰かのためといった純粋な衝動からきているのかと考えたとき、やっぱり褒められたいとか羨望の眼差しが欲しいとか「花丸」を求める気持ちが確かにあります。
でも、なかなかそれを認めたくない。

本当に身が縮むような思いでしたね。
いやあ、観察者としての視点でこのレビューは書けないぞと。
いや別に、そんなに気張る必要もないんですけど。

どれが本当ということではなく、いろいろな気持ちが混ざりあったスープのようなものを心に抱えているのが人間。
それを登場人物たちとほぼ同年齢で掬いあげた作家・朝井リョウ。恐れ入ります。

kwosaさんのコメント
2013/04/04

あやさん!

花丸とコメントをありがとうございます。

朝井リョウさんの作品はデビュー作と今作しか読んでいないのですが、いやあ凄い作家さんですね。
積読がそんなにあるなんてうらやましい。
僕も早く他の作品を読まなければ。

あやさんが『何者』を読んで、どんな感想をお持ちになるのか。とても気になります。

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