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肉体の悪魔 (新潮文庫)についてのkyuyaさんのレビュー


肉体の悪魔 (新潮文庫) 385人が登録 ★3.61

著者: ラディゲ  制作: 新庄 嘉章 
本 / 新潮社 / 248ページ / 1954年12月発売

レビュー by kyuyaさん

 未設定  読み終わった  読了日 : 2010年07月22日  5  登録日: 2010年09月19日

 あらすじだけを言えば、まだ十代の若い男が人妻であるマルトと不倫関係に陥り、最終的にはマルトが不倫でできたと思われる子供の出産のせいで死ぬという悲劇的なもの。この話自体で何が言いたかったのかよく分からないが、内容それ自体よりも、その過程の描き方や心情の分析が鋭く、良い作品にしている。

 この作品は筆者が若干17~18歳の時の作品であるということに驚く。内容や筆遣いがそのくらいの年齢の人物によって書かれたと思えないものである。印象的なのは、婚約し同棲する夫との寝室の家具をマルトと主人公が選ぶところである。主人公は結婚するマルトの夫に対して嫉妬を覚えるが、マルトとその夫の家具の趣味を否定し、彼らが自分が選んだ家具に囲まれて寝ることを想像しながら、彼らの寝室をデザインする。当初はその寝室は素晴らしいものに思えたが、マルトと不倫を重ねるにつれて、その寝室のデザインを彼女の趣味に合わせて選ぶべきだったと後悔するに至る気持ちの変化も丁寧に描かれている。その部屋は、マルトの夫に対して嫉妬する気持ちから生まれたもので、彼に対する自分の悪意を意識させるし、マルトにデザインさせた方が、自分の愛する人のデザインということで、そのデザインを尊敬できるからである。また、マルトの不在中にその部屋で他の女性と逢い引きをするというのも皮肉な話である。
 彼女を深く愛するようになる前は彼女の考えなどを真っ向から否定することができ、そのことで自分はまだ彼女に夢中になっているわけではないと思いこむことができた。しかし次第に彼女の考えに反発することができなくなり、むしろ自分が間違っているのではないかと思うようになる。彼女を尊敬し始めていて、それによって自分が彼女を深く愛しているということを意識する。この心の変化はとてもよく分かるものだった。「はじめは野卑な感情が僕を欺いていたのだが、今は、ずっと奥深い、優しい感情が僕を欺いているのだった」という表現はとても的を得ていると思った。

 また、気になったところは、一体マルトは誰に対して誠実だったのかという点だ。彼女は一応生まれた子供は早産であっただけで、主人公との子供であることに間違いはないと言っているが、真偽は不明である。もしも主人公に対して誠実であったならば、これは背徳的な愛の話ということになるだろうし、逆に夫に対して誠実で主人公とはただの遊びであったとするならば、彼女は娼婦であり、主人公は彼女に弄ばれ日々懊悩としていたという喜劇的な話になるだろうと思う。また、主人公も夫も弄ばれていたということも考えられる。これら三つのどれも考えられることだし、どのようにも解釈ができるように敢えてはっきりさせていないのだと思う。私としては2番目の解釈が正しいような気がするし、タイトルの意味もそれにふさわしいものであると思う。

 冒頭でも言ったように、この作品のよさは内容それ自体よりも、主人公の心情の変化を残酷なまで正直に丁寧に描かれているという点である。皮肉にも作品中に「子供はなにかと口実を考えるものだ。いつの両親の前で言いわけをさせられているので、必然的に嘘をつくようになるのだ」という一文があるが、この作品を書いた年齢的にまだ子供っぽさが残る年齢でありながら、正直に気持ちを表現できているという点が特に素晴らしいのだ。 レビュー登録日 : 2010年09月19日


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