天使の囀り (角川ホラー文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2000年12月8日発売)
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感想 : 797
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アマゾン調査プロジェクトに参加した5名は、滞在地から離れた沢地で、オマキザル科ウアカリ属のうち、特に珍しい種の猿を発見。人を怖がる様子もなく近づいてきたウアカリを難なく仕留めて食す。滞在地へ戻ったところ、彼らが寄ったその沢地は「呪われた沢」と呼ばれていたらしく、たいへんな騒ぎとなって、原住民からただちに追い出される。さて、5名のうちのひとりだったのが作家の高梨。彼の婚約者である精神科医の早苗は、帰国後の高梨の豹変ぶりに驚く。死恐怖症(タナトフォビア)だった高梨が死をまったく恐れず、快活にすら見えたが、時折「天使の囀り(さえずり)」が聞こえるとつぶやいていたかと思うと、死に魅入られたように自殺してしまう。ほかにも不可解な手段による自殺者が相次いで……。

500頁余りの作品で、半ばぐらいまでは「ホラー?」と首をかしげるほどです。ところが以降はもう「助けて~」状態の涙目。けれど先が気になってやめることができません。めちゃめちゃ面白いんだもん。

ここからかなりネタバレ。

ウアカリの肉には線虫(=寄生虫)が宿っていて、これが脳内に侵入すると、自ら最も恐れるものによって捕食されようと行動します。ウアカリの場合は、最も恐れる者=人間だったわけですが、高梨の場合は死に支配され、死に捕食される=自殺という途を辿ることに。ネコ科の動物恐怖症だった者は、サファリパークでトラの前に立ちはだかり、喰いちぎられて死亡というように。

線虫は快楽を刺激する神経にも影響を与えるため、一時はポジティブな考え方になります。それを利用した自己啓発セミナーも登場。しかし、線虫に全身を冒された最終段階は、映像化不可のおぞましさ。それでも、この恐ろしさは同著者の『黒い家』の狂気のオバハンよりはマシ。最後に早苗が選んだ行動も、それでよかったのだと思えて、しんみり。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 既読(2015年〜2010年)
感想投稿日 : 2017年4月23日
読了日 : 2017年4月23日
本棚登録日 : 2017年4月23日

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