おそらく本作を読んだ人の90%は、『その女アレックス』でピエール・ルメートルを知り、そちらを先に読んでから本作に手を出したはず。本作はカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの1作目、『その女~』が2作目であるにもかかわらず、日本での刊行年がそもそも入れ替わっているのですから。そんなわけで、ネタバレしてもネタバレにはならないはず。
会った相手がどこを見ていいか困るほどの小男、身長145cmの警部カミーユ。けれども美しいイレーヌと運命の出会いがあり、結婚。イレーヌは妊娠中で、夫婦は新しい命の誕生を心待ちにしている。そんな折り起こった猟奇殺人事件。しかも過去の未解決事件のうちのいくつかが、同じ犯人によるものだと判明する。キレもののカミーユは、新聞広告を通じて犯人を挑発、犯人もそれに応えるのだが……。
犯人の手口は一貫性がないように思われていましたが、実は名作ミステリーに出てくる殺人の手法を事細かに再現したもの。ジェイムズ・エルロイの『ブラック・ダリア』、ブレット・イーストン・ エリスの『アメリカン・サイコ』など、取り上げられるミステリーに心が躍ります。とても面白い。
しかし、この絶望的なオチ。『その女アレックス』を読んだ人が知っているように、イレーヌは母子もろとも被害者となります。凄絶なラストシーンに、カミーユが駆けつけてイレーヌもお腹の子どもも助かったという展開を望むのは普通すぎるのでしょうか。普通すぎてもいいからそうあってほしかった。
期せずして日本での刊行年が前後した本作と『その女~』ですが、個人的にはそれでよかったのかもしれないと思えます。絶望のどん底に突き落とされたカミーユが、次作の『その女~』で復活することがわかっているからこのオチにも耐えられる。カミーユとイレーヌのなれそめも本作で知ることができ、これでもう一度『その女~』を読んだら、そこここで泣いてしまうかもしれません。
- 感想投稿日 : 2017年4月27日
- 読了日 : 2017年4月27日
- 本棚登録日 : 2017年5月10日
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