幽霊伯爵の花嫁 (小学館ルルル文庫)

著者 :
  • 小学館 (2011年6月24日発売)
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感想 : 28
3

“「それは無理だ」
ジェイクは今までにないほど、強くはっきりと即答した。完全な無表情を貼り付けて、何を考えているのかなど欠片も覗かせなかった。言葉の強さに驚いたのか、エリオスも驚いた顔でジェイクを見上げた。
「私はきみを幸せにはできないよ。私は人を不幸にする性質の人間だ」
ジェイクはそう続けた。サアラは自分の言葉が、歪んで伝わってしまったことに少しがっかりして、口を尖らせた。
「私は幸せにしてほしいなんて、一言も言っていませんわ。私は幸せになりたいのではなくて、幸せでありたいんです」
言葉遊びのようで意味が分からなかったのか、ジェイクの無表情に少し不可解な色が混じった。サアラは胸に片手を当てて、堂々と言ってのける。
「昔も今も変わりなく、私は充分幸せです。ただ、最期の時まで幸せであり続けるために、私は与えられた状況の中で、最善を尽くしたいのですわ」
力強くサアラが言い放つと、ジェイクは何だか不思議そうな真顔になった。
「きみにとっての幸せとは、何だ?」
そんなことを聞かれるとは思わなかったので、サアラは少しびっくりして目を見開き、ジェイクを見つめた。そしてにっこりと微笑む。
「私にとっての幸せとは、私が私であることを後悔しないということです」”

新鮮。
主人公の性格が何より新鮮。
すっきりするなー。
傲慢にも生意気にも性格が悪いようにも見える本音を隠さないずばっとした物言い。
自分が美人であることさえも武器に使うような。あと人を観察するのに長けている。
この世で一番恐ろしいものは生きている人間でそれは誰しもが残虐にさえなれる『悪意』を持っているからで。
けれどそれと同じくらいに人間は優しさを愛情を持っているから生きている人間を好きになれる。
達観してらっしゃる。
ジェイクの性格も良いなー。優しい人だ。

“「ねえ、ジェイク様。私を不幸で可哀想だとお思いになる?」
最初と同じ質問に、ジェイクは難しい顔をして考え込んだ。
「………それはよく分からないが……君がとてもずるくて強かな人間だということは、よく分かった」
そんなことを言う。意外な事を言われてサアラは頬杖をついたまま首をかしげた。
「まあ……、ずるいですか?」
傲慢とか、生意気とか、性格が悪いとかは言われたことがあるが、ずるいと言われたことはあまりない。不思議そうに眉をひそめたサアラに、ジェイクははっきり言った。
「きみはずるいよ。幼い頃の傷や痛みを武器にして相手を攻撃している。そんな……自分をも傷付けるような武器を使う人間など、そうはいない」
そう言いながらも、ジェイクの口調に責める気配はなかった。
サアラは誇らしげに指先を自分の胸に当て、凄艶な笑みを浮かべた。
「ええ――私、使えるものなら何でも使って戦いますわ。だって、私は私しかもっていないのですもの」
他のものなど、もう何一つ持っていない。だから、傷だろうと痛みだろうと、使えるなら使う。
「強かだな」
ジェイクは呆れたようにつぶやいた。”

20160803 再読

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫本
感想投稿日 : 2011年8月6日
読了日 : 2011年8月6日
本棚登録日 : 2011年8月6日

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