兄妹パズル

著者 :
  • ポプラ社 (2010年5月15日発売)
3.13
  • (1)
  • (17)
  • (49)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 188
感想 : 31
3

“「えっ?」
「よそのお家の玄関のなか」
と、ユッコは繰り返した。
「玄関を開けると、よその家にはよその家の匂いがして、その家だけに通じる言葉やルールがあるじゃない?」
「うん、まあ」
そう言われると、そんな気がしてきた。わたしが両親のことをひとに話すとき父親母親と言うのは、わたしの母もまたそう言っていたからで、じゃあ父親は父親の両親をなんて言うかというと親父とお袋で、そっちのほうはふたりの兄が踏襲している。
だからわたしはなんとなく、男の子である兄貴たちは父親の物言いに倣い、女の子のわたしは母親のほうに倣って、そしてそういうことはどこの家も同じだと思っていた。どこの家も同じにそうしていて、どこの家も男の子は外に対して――ある時期からは内に対しても――親父とお袋と言い、女の子は父親母親というものだと。”

家族って、何?
家族であること家族であろうとすること。
家族だからこその秘密。

“「このことも、ママたちに言ったほうがいいかな?」
「亜実と話したってこと?」
「うん」
「そうだね」
「そうだよね」
気まずいけど、そのほうがいい。そのほうがずっといい。強くそう思った。そしてもう誰もが逃げたり隠したりもなしだ。それでもわたしたち三人は断然兄弟なんだから。わたしたちは家族なんだから。
「あっ」
わたしは小さく叫び声をあげた。
「まだあるの?」
上の兄貴がすこしあきれたように訊いた。
「そうじゃなくて、ほら、外」
そう言って、わたしは窓を指差した。上の兄貴の勉強机の先にある小さな窓を。
「あっ」
わたしと同じような声を上の兄貴も出す。
朝焼けだった。兄貴が網戸を開けて、からだを乗り出すようにして朝焼けを見た。兄貴の机にからだごと乗って、兄貴にくっつくようにしてわたしも見た。朝焼けを。それから徐々に朝焼けが薄れ、空が白っぽくなっていくのを、見た。
朝が来たんだ。”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:
感想投稿日 : 2010年11月28日
読了日 : -
本棚登録日 : 2010年11月28日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする