7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー (講談社ノベルス)

  • 講談社 (2017年9月7日発売)
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本棚登録 : 941
感想 : 99
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自作が月9になっても、納得いくまで推敲をしないことには新刊を出さない麻耶雄嵩。普通は這ってでも放映期間中に出すだろ! そんな浮世離れしたアナタが好きです。

閑話休題。
アンソロ恒例のランキングは、そんな信者補正も踏まえて麻耶≧有栖川>法月>歌野≧我孫子>>綾辻>>(越え壁)>>山口(未読)
山口氏は…申し訳ないが、人を選びすぎる。いちおう冒頭数ページは真面目に、以後も相当までパラ見したけど無理でした。あと、近著も落語ネタな上に今回のこの題材って、公私混同ですかとしか。「ミステリするための落語ネタ」なら我慢して読むけど、「最近落語にハマってるからそのネタで」って。そういうの、生理的に苦手なんです。
綾辻氏のも、相当人を選ぶと思う。つか「30周年記念」の「新本格」アンソロでこれはないよ…。これならいっそ、「書けないよーーーごめんよーーー」って前振りは要らなかった。しれっとやってくれたなら、まだしも鼻につかなかったかも。なまじ良識があったからの敗北という気がする。
以下、他の「普通にミステリしてた人たち」の備忘録を掲載順に。

マーヤ。登場人物の苗字が内田に鈴木に山田に小野(こういうのこそ「30周年記念のお遊び」だよ!)、でも名前はパレス(!)にベルリン(!!)にゴート(!!!)にセレナーデ(!!!!)(注・日本人です)。人里離れたお屋敷にはメイドさんがいて、「ああ、びばのんのん」あり、クイーンへのオマージュあり。そうそう、ドMなミステリファンは快感絶頂の「最後の一撃」も忘れずに。どんな時も我が道を行く通常運転がすばらしい。一生愛す!
我孫子氏。これまたいかにもこの人らしく、ネットをめぐる社会への問題意識をしごくペシミスティックに描いてみせたもの。吉村が出てくるまでは面白かった。ミステリの短編では構造上どうしてもそうなってしまいがちな、「ひたすら筋を追ってそのまま最後にダーッとネタバラシ」系なので、「アンタが犯人って言われてもフーンとしか」的なポッと出感が拭えないのはやむをえないか。
有栖川氏。本当にこの人は安定してる。ミステリ界随一の優等生!(マーヤも安定感はすごいんだけど、そこはそれ「安定して突拍子もない」ので) しかも今回は「名探偵」というお題もきちんと拾って、火村(&アリス)萌えの人たちも大満足の1本だろう。オチも予定調和っちゃ予定調和だけど、余韻があってなかなかに秀逸。ミステリ、あるいは小説として、普通の人が普通に読んだ場合の満足度が最も高いのがこの作品だと思う。
法月氏。ロジックみが薄いけど、それは他の人も大なり小なりそうだしかまわない。1行めから提示される謎のインパクトは断トツで、アンソロという形態においてはそこを高く評価したい。「悩める作家」が肩の力を抜き、楽しんで書いたのが伝わってきて良かった。
歌野氏。これまた、1行めからすごい破壊力。短編なのにカタストロフもの、短編なのにクローズド・サークル、短編なのに多重殺人。何度となく「マジで!?」と叫ばされることは請け合い。惜しむらくはネタが軽く、ミステリというより小説として優れたものになっている。
総合評価は、マーヤと有栖川氏で星1つおまけという感じ。

2017/9/23読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 麻耶雄嵩
感想投稿日 : 2017年9月23日
読了日 : 2017年9月23日
本棚登録日 : 2017年9月23日

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