世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ミステリ 1902)

  • 早川書房 (2015年12月8日発売)
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本棚登録 : 192
感想 : 22
4

「カルドセプト リボルト」にかまけていたせいもあるが、それにしても進まなかった。のっけから「警官のいえ」を出て、みずから見捨てた妹を探しに行くなどと言い出されたらなおさらだ。
というかこの男、特にというか全然「いい男」ではない。凝り固まった己の信念のみを強迫的に抱え込み、それ以外は人間としておよそからっぽで、ひと様に提供できる何を持っているでもない。なのになぜか次から次に女性から愛され、情報・食べ物・セックスなど、その時その時いちばん欲するところのものをちゃっかり提供される。だが、彼のほうは彼女に何を返せるでなく、それどころか自分(の信念)のみを最優先して、つれなく彼女のもとを去るのだ。袖にされた彼女はそんな彼を想って泣き、かきくどくという寸法。
特に魅力的でもない利己的で独善的な男が、3作で3人、つまり話ごとに尽くしてくれる「都合のいい」女を取っ替え引っ替えして、己の道(のみ)を突き進む。このオッサンドリームが、3度めともなるとだんだん鼻についてきた。特に、第2作で彼(なんぞ)のためにあれほど心を砕き、自分の立場や生命までも危険に晒し、大きな犠牲を払ったマコネルへのあの仕打ちは許しがたい。彼女を捨てたあげく、サンディとの、特に意味のないあの絡みだ。
妹が妹がと言うけれど、彼女の言葉に一度だって耳を傾けてやったでもない。どころか彼に、たった1人の兄に話を聞いてもらえなかったから、妹は彼のもとを去ったようなものなのに。連れ戻したところで、彼に彼女の言葉を聞く気などない。ただ自分が望む「故郷で、妹を傍らに置いた状態での無為な死」に付き合わせるオブジェとして、妹を無理やり連れ戻したいだけなのだ。彼女が、みずからの意志で選んだ居場所から。
そんなわけで、主人公の個人的な動機にはまったく応援できる部分はないのだが、彼がさすらうことになる「終わりの世界」は、相変わらず興味深い。主人公に関しても、偏執的・強迫的な「刑事であること」へのこだわりについては、作者はちゃんと「わかっていて」書いていると感じる(オッサンドリームについては、わかっていなさそうだけど)。主人公を英雄ではなく、滑稽な変人——ことによると狂人——としてきちんと書いている。そこが、この物語を救っている。ミステリ部分は2作めよりさらに薄く、「真犯人」は私ですら察しがついたが、まあそれはご愛敬というものだ。
しかし、ほとんど医療の崩壊した世界で銃弾に上腕動脈をぶった切られ、折れた肋骨が内臓に刺さった状態だというのに、主人公が妙にピンシャンしているのには失笑を禁じえない。本当なら、終わりを待たずに高熱を発してのたれ死んでいるはずなのでは。それもまたオッサンドリームなのだろう。

?〜2016/10/15読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ&サスペンス
感想投稿日 : 2016年10月15日
読了日 : 2016年10月15日
本棚登録日 : 2016年10月15日

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