巻末の「『実録・天皇記』の実録」にいみじくもあるとおり、著者の目的は「天皇家自体を書く」ことにはない。我が国の歴史、なかんずく徳川家以降の為政者にとって天皇家とはいかなる存在であったか、また、それを受けて天皇や皇族はどのように振る舞ったか…を概観する本である。そういった意味では原著は知らず、昭和帝ご一家のスナップを大きくあしらった2007年版の装丁はやや詐欺的である。
また、本書は時代を越えた普遍性を持つものではない。もとより著者は、そんなものを狙ってはいない。
原著刊行が昭和27年、すなわち敗戦から10年も経たない頃である。何事にも反動があるもので、まだ共産主義の化けの皮が剥がれていなかったこともあり、当時の世相は現代とは比べものにならないほど左傾化していた。それが一種のブームであった。著者自身はそんなものに踊らされる馬鹿ではないが、皇国史観しか教えられずに育って敗戦でひどい目に遭い、あげく一転「左」のノリにどっぷり浸かった大衆に向けて書かれたものであることは、一読すれば明白だ。
それを重々踏まえて読めば、たぶん著者自身も意図しなかったような些細な箇所から嗅ぎ取れる、時代の空気が興味深い。だが、半世紀以上前に書かれた本にそれ以上の価値を見出すのは、難しいと言わざるをえない。
2012/6/18〜6/19読了
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史
- 感想投稿日 : 2012年6月19日
- 読了日 : 2012年6月19日
- 本棚登録日 : 2012年6月19日
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