レビュー by Le_VentVert_さん
「エジソンからGoogleへ」
そんな見出しで始まる本書は、クラウドコンピューティングをシステマティックに解説するのではなく、それが世界にもたらすインパクトについて解説される。
前半は今日のIT化社会に入る以前、バーデンの水車開発やエジソンの発電機発明など、今日のオートメーション化の歴史背景を振り返る。
そして後半は、「旧来の工業化時代には巨大な発電所が電力を供給したように、我々の情報化時代においてはコンピュータプラントが動力を供給する」というクラウド・コンピューティングの時代の到来について。(※GoogleのCEOであるエリック・シュミットが名付け親とされている)クラウドは企業を数社の巨大ITベンダーの支配やデータセンターの制約から解放し、カスタムメイドな情報処理を可能にした。そして企業ばかりではなく、「Gmail」に代表されるように、家庭の一個人までも「雲の中」に取り込んだ。SNSやYoutubeなどを通じ、「無報酬の労働力」を世界中に生み出した(ユーザーが作りだしたコンテンツの商業化)。
このように、より豊富で独創的なコンテンツが生まれる環境の構築が賞賛される中で、カー氏は、「技能のあるなしに関わらず、労働者はソフトウェアにとって代わられ、知的労働が世界規模で取引され、企業がボランティア労働を集約して経済的利益を収奪している現状は、ユートピアとはほど遠いと思わざるを得ない」と指摘する。そしてそれは、「デジタルエリートと大多数の人々との分裂に拍車をかける」という。
また、例えばSNSなどでどれだけ個人情報を隠そうとも、そもそもネットに接続した時点で、IPアドレスによりコンピュータの所在がサーバに記録されていることから、ボーダレス社会の裏側で、一部のベンダによる監視社会が築かれていると警鐘を鳴らす。ジョージオーウェルが「1984年」で描いた全体主義社会も、Googleが築こうと思えば築けるフェイズにきていると。
そしてまた「似た者同士」で集まる性格を持つ人間は、国境を越えて仲間を求め、多様性を封鎖するボーダレスな閉塞空間を作りだす。ネットによって世界は多様化どころか、どんどん閉塞的になってゆく可能性がある。
このようにカー氏はクラウド化のネガティブな側面を挙げているが、否定しているわけではない。これらの側面を認識した上で、「クラウド化する世界」を生きていく必要があるということだ。物事を自分なりに判断できるだけの価値観をもつことが求められているといえるだろう。ヒトが生み出した雲に飲まれて右往左往してしまわぬように。
レビュー登録日 : 2011年07月31日
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