『武蔵野夫人』を読んだため、続けて読んでみた本。
言文一致体の揺籃期の文章のため、かなり読みづらさを感じますが、内容は武蔵野の自然賛歌を綴った随想風の短編。
一冊まるまるが表題の作品だと思いきや、実際には30ページほどしかなく、他の作品も含めた小品集となっていました。
固い文章ですが、慣れてくるとその写実的な抒情性がとても美しく感じます。
彼の日本語の向こうに、木漏れ日に輝く静かな武蔵野の雑木林が見えてきます。
当時一世を風靡したツルゲーネフの『あいびき』を引き合いに出しながら、自然への礼讃を書き連ねた文章。
いかに武蔵野の自然を愛しているのかが伝わってきます。
「武蔵野は東京とは違うとする。」という著者独特のこだわりの強さも見て取れます。
東京は「新しい都」であるため、「斯様なわけで東京は必ず武蔵野から抹殺せねばならぬ。」のだそうです。
町はずれであることが、武蔵野である条件だとか。
たしかに自然を主眼としているため、そういった分け方となるのでしょう。
「八王子は決して武蔵野には入れられない」
丸子や下目黒、二子など「多摩川はどうしても武蔵野の範囲に入れなければならぬ」
など、具体的な地名を挙げて、範囲を事細かに説明しています。
流麗で古めかしい文章でつづられた、断定的で熱い内容に、驚きます。
かなり決めつけているような感もあるため、古参になってからの文かと思いきや、まだ30歳の初期の作品というので意外でした。
血気盛んな思いで自然美に感嘆しているということでしょう。
たしかに、武蔵小金井や武蔵小山、武蔵小杉など、「武蔵」と名のつく地名が点在しているのは前から不思議に思っていましたが、著者の説が合っているのであれば、どこも東京の町外れで多摩川沿いという点が共通することに気がつきました。
心豊かな読了感を味わえる文章です。
他の作品も、流れるような文章を楽しみましたが、この『武蔵野』は、とりわけ秋に再読してみたいと思いました。
- 感想投稿日 : 2012年4月11日
- 読了日 : 2012年4月11日
- 本棚登録日 : 2012年4月11日
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