パリの秘密 (中公文庫 か 56-10)

著者 :
  • 中央公論新社 (2010年3月25日発売)
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本棚登録 : 177
感想 : 7

大名行列に続き、秘密のタイトルが続きますが、内容は全く異なります。
鹿島氏の著書はこれまで何冊も読んできましたが、エッセイは初めてかもしれません。

東京新聞に連載された短いエッセイがまとめられています。
いくらパリに精通していても、シリーズ化して読者の知らないような話を提供するのは、なかなか大変そう。

起承転結がないような小品集なので、肩肘張らずに読めます。
パリのオペラ座の地下には怪人がいる、というのはミュージカルの設定ですが、実際にオペラ座に養蜂場があるとは知らず、驚きました。
屋根の上にあり、そこのミツバチはチュイルリー公園を餌場としているとのことです。
オペラ座でそのハチミツを売っているのか、気になりましたが、その点には言及されておらず、少々物足りなさを感じました。

フランスのアイスクリームは匂いがきつく、苦手な日本人も多いそうです。
実際に食べた記憶がないため、自分では何とも言えませんが、フランスのアイスクリームは「味」ではなく「匂い(フレーバー)」だからだそうです。
日本でFAUCHONのアイスクリームを食べたことはありますが、特に印象には残っていません。
今度、気をつけて食べてみなくては。

日本人の思い描く青い目のフランス人形は、フランスにはないという話は、言われてみれば確かに、と納得する内容でした。
フランス人形といったら、私たちが連想するのはアンティークで高級なビスク・ドール。
実際には、フランスの一般家庭の子供が、そのような人形を持っているわけではないのです。
日本では童謡に歌われたことから、フランス人形神話が浸透したのだそうです。

ニコラ・フラメルの名前が登場しました。
『ハリー・ポッター』に登場したことでその名を知った錬金術師です。
フランス人だったとは思いませんでした。

ミュージカル「壁抜け男」の銅像があるそうです。
好きな作品なので気になるところ。銅像の作者は、なんと俳優のジャン・マレー。
マレーも、恋人コクトーのように万能の天才だったとは知りませんでした。
コクトーの手を、銅像に反映させているそうです。

この本で一番スッキリした謎解きは、イルカの像の話でした。
フランスの各所に、イルカの像が見受けられます。
さらにそれは、可愛らしいものではなく、中世の悪魔のように奇怪な姿をしているのです。

いつも気になっていましたが、それはフランス語のdaupinが「イルカ」のほかに「王太子」(国王の世継ぎ)という意味も持つため、王太子の祝福を意味するモチーフなのだそうです。
ただ、なぜ不気味な姿を模しているのかは、著者もわからないとのことでした。

著者の専門領域に興味があるため、ほかの著書よりもこのエッセイは単純で、時に単調さも感じる内容ではありましたが、それでも時折、面白い発見があり、読んでよかったと思えるものでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 地域研究・旅
感想投稿日 : 2012年6月13日
読了日 : 2012年6月13日
本棚登録日 : 2012年6月13日

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