左ききのトリセツ

著者 :
  • グラフ社 (2008年12月6日発売)
1.64
  • (0)
  • (0)
  • (2)
  • (3)
  • (6)
本棚登録 : 28
感想 : 8
1

左利きの人が好きな私。(そういえば、左利きの本って読んだことが無かった)と思い、読んでみました。
著者のプロフィールを見ると、もともと動物園勤務の飼育係だった方で、本の内容とはかなりジャンルがかけ離れていることが気になりました。

まずは、自分が幼少時、左利きだったものの、親によって矯正されたというエピソードから始まります。
それがこの本の執筆に至る大きな理由の一つだったようですが、何度もこの話が出てくる割には、それに即した実験的な方向性には話が発展していかないため、単なるアピールで終わってしまっているように感じました。

内容も、エッセイといったところ。
論理性に乏しく、かなりこじつけ的な内容も多かったところに正直落胆しました。

この人の本を読むのはおそらく初めてですが、著書が70冊以上もあるとのことで、かなりの人気作家のようです。
ただ、私はあまりピンとこず、相性がよくない感触を受けました。

さまざまな歴史上の人物や物語上の人物を採り上げては、その人が左利きだったであろう話を紹介していきます。
著者の多様な読書知識が伺えますが、引き合いに出される人物が丹下左膳や左甚五郎など、かなり古さを感じます。
さらに二人とも、名前に左がついているからチェックしたのではないかと思えてなりません。
右利きか左利きか、はっきりわからないのに、推測で左利きだろうと仮定した上での話も多く、信ぴょう性に欠けるふしも見られます。

左利きと関係ない話も多々登場し、論点が霞んでしまいがちでした。
そもそも、この本では何を言いたいのか、よくわかりません。
古今東西の左利き(とされる)人々の紹介についてでしょうか。

もっと実際的に、実験を経た上での科学理論などが展開されるものと思っていただけに、少々あてがはずれました。

それでも興味深かったのは、動物の生態の話です。
やはり本職の飼育員としての知識が一番深く、ゾウが穴を掘って死んだ小ゾウを埋めた話など、意外な事実が紹介されていました。
スズメは飼いならせない鳥で、捕獲しても外へ出たがって檻に体をぶつけ、血だらけになってしまうとのこと。
卵から育てて、一度も野生に放したことのないスズメでさえも一緒なのだとか。
野生本能が強い鳥のようです。

ただ、一匹狼にあこがれる心理を説く弾で、一匹狼的な人物を左利きタイプと決めつけているような節には、(本にしていいものか)とさえ思いました。

左利きの話から、歴史をさかのぼって左を差別とする風潮にまで言及していきます。
左は邪悪、不浄の手とされる海外に比べて、日本は左利きに寛容だったそうです。

まとめ方次第では、壮大な本になったようにも思えますが、どうにもエッセイ的な域を出ないところが残念。
さらに、著者の不得手とするジャンルなのか、野球やサッカーなどのスポーツのサウスポーには一切言及されていなかったため、偏りのある内容だなと思いました。

これは著者というよりも、ご意見番の担当編集者の才覚かもしれませんが、正直、この著者のほかの作品を続けて読みたいという気持ちにはなれませんでした。
別の人による、別のアプローチからまとめられた左利きの本を読んでみたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・対談
感想投稿日 : 2012年9月26日
読了日 : 2012年9月26日
本棚登録日 : 2012年9月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする