カラー版 空海と密教美術 (カラー新書y)

  • 洋泉社 (2011年7月7日発売)
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感想 : 4

よくある、仏教美術品の紹介と解説本かと思いましたが、ここまでしっかりと空海と密教について解説された本を読んだのは初めて。
美術品を全てカラー写真で掲載している点が嬉しいですし、空海という人物について、全体的な理解ができるようになっています。

空海ゆかりの寺院、神護寺や金剛峯寺の所蔵品の数々。保存状態が良く、国宝や重文が多いことに驚きます。
鎌倉期の運慶の「八大童子立像」をカラーで見られたのは嬉しかったです。色が消えずに鮮やかなままで、生き生きとして写実的。
8人の体型も少しずつ違い、それぞれの個性がはっきりと出ていました。
快慶の「孔雀明王像」は、その精緻さとバランスの良さが素晴らしいです。
愛染明王と不動明王は、もともと密教の仏なんだそうです。

東寺にある、空海の師恵果が作らせた密教法具は、国宝ながら、今でも行事のときに使用されているとのことです。
宝物館に厳重に仕舞われているわけではないんですね。

密教については、長いこと、生半可に触れてはいけない神秘的な宗教のような気がしていましたが、特に秘密の宗教というわけではないのだそうです。
小乗仏教→大乗仏教→密教という流れを汲んでおり、密教は仏教の新しい形態なのだそうです。

また、仏教において、煩悩とは撲滅すべきものだとされていますが、密教では「煩悩即菩提」という考えがあると知って、驚きました。
迷っているからこそ悟りを得られ、自心の仏に気づくと説いているのだそうです。
日々、俗世の楽しさと煩悩にまみれて生きている身にとって、なんだか密教が、ぐっと身近なものに思えてきました。

天台宗の最澄との不仲は、空海が、密教とは人と人との間で教わるべきものとしているのに対し、最澄が経典から学ぶべきものと捉えていた、考え方の相違にあるとのことです。
なるほど。理論と実践という点で折り合えなかったのですね。

恵果と知り合い、一番弟子として密教を受法したのが三カ月、その三か月後に恵果は亡くなったという、たった半年のドラマティックな師弟関係。
すぐに密教を日本に広めようとしたものの、もともと唐で20年間学ぶという命の元に遣唐使に選ばれたという空海だったため、すぐの帰国は予定になく、遣唐使船もそうそう来るわけではないため、実行までが大変だったようです。

それにしても、平安時代に20年間唐にいるとは、ほとんど異国の地で一生を費やす覚悟だったのでしょう。
なんとか3年後に帰国を果たした空海。
それでも当初の約束をたがえたことで、3年間京都には入れなかったそうです。当時の規律は厳格だったんですね。
ちなみに空海と一緒に唐に渡った最澄は、はじめから短期予定だったので、先に帰国したそうです。

また、弘法大師への信仰は、真言宗や密教にかかわらず、宗派を問わないものなのだそうです。
それで、四国八十八か所巡りに繰り出すお遍路さんたちは、あんなに大勢いるのですね。

空海密教の究極は、「本来の自分に気付き、仏の真似をして仏になりきる」ということだそうで、解脱するには相当人生をかけた修業が必要ですが、模倣でよいなら、気持ち一つで行いやすい、なんとも人にやさしい宗教なんだなと、目からうろこが落ちる思いがしました。

以前、五木寛之の『親鸞』を読みました。
小説としての脚色はあったものの、かなりわかりやすく、親鸞本人に親しみが持てるようになったので、同じように空海の一生が小説になっているものがあったら、ぜひ読んでみたいと思います。
(そういえばかつて、北大路欣也主演の映画がありましたね。DVDを探してみようかな。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 宗教全般
感想投稿日 : 2011年10月27日
読了日 : 2011年10月27日
本棚登録日 : 2011年10月27日

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