帝国と暗殺―ジェンダーからみる近代日本のメディア編成

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  • 新曜社 (2005年10月28日発売)
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感想 : 3
4

アイヌ・琉球民族の制圧から、大韓帝国の併合をへて、大逆事件、明治天皇死去に至る、明治期の帝国主義的欲望を、メディアの紡ぐ「物語」を通して分析しようとした野心的著作。キーワードは、「病」と「血」と「女」です。
フーコーの身体論を踏まえつつ、病として異質化されるものを排除することによって、国民国家の身体の境界を確立しようとする過程とは、とりもなおさず、その境界の脆さを露呈せずにいないことを、同時代のメディアにあらわれた、衛生、「新しい女性」、朝鮮王宮、大逆事件、そして明治天皇の病み死にゆく身体をめぐるディスコースを通して、明らかにしようと試みる。
この種の著作にありがちなことだけど、とかく小難しい専門用語が多すぎ。それに自分の目に見えてみた構図を他人に説得力をもって示すには、もっとわかりやすい論証が必要だと思うのよ。牽強付会とまでは言わないけど、この事例一つでそこまで言えるかなあと思う部分がないわけではなかった。まあでも、そのへんも含めて面白かったですが。
特に興味深かったのは、大韓帝国皇后閔妃をめぐる日本での報道。誰かをわかりやすい悪女にしたてて叩くというのは、今でもよく見られる報道パターンですが、それでも日本人が関わった暗殺には隠しきれない居心地悪さがにじみだし、かわりに幼い皇太子をアイドルにまつりあげてマッチポンプ。あまりにも変わってなさすぎて面白い・・・。
あと、伝染病や売春にかかわり、欧米の目を卑屈なほど気にしつつ、下層階級に対する差別観まる出しの福沢諭吉先生の数々の文章もたまりません。なんでこんな人がいまだに偉人扱いなのかねえ。
本書を読んでたのはちょうど外国人献金が問題になってた頃。明治時代ほどあからさまな差別的表現がなくなっただけで、根本的問題をつたえずにプロパガンダをまきちらすマスコミの機能は、ほとんど変わってないのではなかろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2011年3月20日
読了日 : 2011年3月12日
本棚登録日 : 2011年3月12日

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