次々と新しい作品をくりだし、けっして一ところにとどまらないアン・リー監督、今度はカナダへ移民したインド人男性の、真実とも夢想ともつかぬ半生の物語を、CGを見事に使いこなして映像化してみせた。
パイという変わった名前のもととなったフランスの公営プールにまつわるイメージ。嵐の海に家族全員を失うという悲劇のシーンにはエキゾチックな動物たちが水の中を泳ぎまわり、チャーリー・パーカーという名のトラとの漂流生活には、命をかけた闘いの中にも、まるで子ども向け冒険譚のような幻想が混じりこんでくる。そして最後の最後に、観客は、二通りのストーリーを示され、どちらを信じるのもかまわないと放り出されるのだ。どちらのバージョンにしても、パイは家族を失い、最後にはカナダへとたどり着く。であれば、チャーリー・パーカーと一緒の幻想的な旅を信じてもよいではないか?
めくるめく映像に心を奪われながら、悲劇とおかしみと幻想が混然一体となったパイという人物の生涯に思いをさそわれる、油断ならぬ大人の幻想的冒険譚。アン・リー、名人の風格である。
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- 感想投稿日 : 2013年7月9日
- 読了日 : 2013年7月5日
- 本棚登録日 : 2013年7月9日
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