怖すぎる。でも面白い小説。
今現実で不審死が相次ぐ病院のことが取り沙汰されているけれど、その事件を多少想起する部分があるような…
大学生の難波は、結核にかかり女医が多く勤務する病院に入院することになった。
そこでは患者の謎の失踪や寝たきり老人への劇薬入りの点滴など、奇怪な事件が続発していて、難波は疑いからやがて病院の内部事情を追求しはじめる。
背後には、無邪気な微笑の裏で陰湿な悪を求める女医の黒い影があった。
ミステリ小説としても読むことが出来る。次々起こる事件の実行犯は一人の女医だけど、その名前は終盤のある地点までいかないと明かされないから。
そして、著者がクリスチャンなので、キリスト教的な要素も。登場人物である神父が説く、“悪”と“悪魔”の違いは興味深かった。
元は善良な人間であっても、状況やタイミングによっては“悪”をはたらいてしまうことがある。それが犯罪であっても、情状酌量の余地があるものは、大抵それに当たる。それらには必ず、罪の意識というものがつきまとう。
だけど“悪魔”は、今で言ういわゆるサイコパスのようなもので、良心は痛まず罪の意識もなくむしろ面白がって悪事をはたらくことが出来てしまう、そういう種類の人間のこと。
この物語にも“悪魔”は出てくるけれど、非常に分かりにくく存在している。現実でももしかしたら、こんな風にして巧妙に隠れ人を騙しながら存在しているのかも、と思うととても恐ろしい。
(こないだ観た映画にもそういう形で“悪魔”が紛れていた、ということを思い出した)
女医は“悪魔”なのかというと、そうではないように思った。悪いことには違いないけれど。
本物の“悪魔”との違いを考察するのも読み方としてある小説。
病気になってしまった人間はその病院を信じて身を預けるしかないわけだから、病院の人間が恐ろしいことをしてしまったら、成す術もない。
自分の母親もかつて病院で酷い目に遭って命を落としかけたことがあるから、現実でも身近にないとは言い切れない。
人の“善”を信じるか“悪”を疑うかっていうのは本当に難しい問題。
そして遠藤周作の小説は本当に読みやすくて深くて面白い。
- 感想投稿日 : 2016年10月6日
- 読了日 : 2016年10月6日
- 本棚登録日 : 2016年10月6日
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