表題作「パルタイ」はもちろん面白かったのだが、その次に私は「蛇」を興味深く読んだ。結局直接的な批判(?)じゃないと理解できないってことなのかなぁ。解説によれば、「<革命党>の在りかたに対する作者の鋭い風刺や摘発を読み取ること」は「ここで大事なこと」ではないらしい。まぁ確かに哲学(形而上学)的な作品群とは思うけれど。「非人」や「貝のなか」はだいぶアレゴリカルというか何というかで・・・解説者曰く、最初の「パルタイ」と最後の「密告」はそれぞれ<カフカ、カミュ、サルトルの三位一体>と<一見して[ジャン・]ジュネ風の小説である>と、作者自身が語っていたそうだ。ジュネって知らないけど(カフカ、カミュ、サルトルを‘知ってる’わけじゃないけど!)、「密告」には学生運動よりもむしろ軍国主義やキリスト教が登場して、つまり左だろうが右だろうが一神教だろうが教条主義という同じコインの裏表にすぎないと読めて、やはり興味深かった。
高野悦子『二十歳の原点』の9年も前に書かれていたというのが驚き。『二十歳~』で引っ掛かったばかりなので、「蛇」のこの(↓)箇所は大いに痛快だった(これが「蛇」その他『パルタイ』収録作品を代表するものではないのだが!):
‘「おい、どこへいくんだ」とKは階段のところで声をかけられた。
「ああ、Sくんですか。ぼく、これからちょっとLさんに会いにいこうとおもうんだけど」Kは鼻のうえにしわをよせ、はにかみながらこたえた。LのことではしばしばSに冷やかされていたからだった。しかしSは驚くべき声でどなった。「それどころじゃない!けさから発電所の労働者がストに突入した。きみのための抗議デモも、そのストに合流する。つまり労働者と学生は共同戦線をはってたたかうことにきまったんだ。きみも参加すべきだ。」
「でも」とKはしりごみしながらいった。「いまはそういうわけにはいかないんですよ」
「自治会の決議だ」とSはおしつけがましくいった。
「そうですか。でもぼくは自治会にははいっていないんだし……」
「ばかなことをいうな。学生は全員自治会員じゃないか。入学したときから自動的にそういうことになっているのを知らないのか?」Sは口を横にひきあけ、眼では笑いながらKをきめつけた。これはKには、ほとんど脅迫がましくおもわれた。
「そんなのは罠にかけるようなものですよ。だって、ぼくは自治会を選んだわけじゃなかったし、それならぼく、これから自治会をでようかとおもうんだけど」
するとSはKを逃がさないように手をひろげ、鶏を追うような姿勢でKに迫った。Kはおもわず笑いそうになりながらSと衝突し、かさばった腹でSをおしたおすと、息をきらして下までかけおりた。’
(pp. 130-131)
- 感想投稿日 : 2010年6月30日
- 読了日 : 2010年5月17日
- 本棚登録日 : 2010年5月17日
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