京都を舞台に、独特の世界を描いた小説を発表している、森見登美彦。
先に読んだ『聖なる怠け者の冒険』の舞台になっていたのが、京都祇園祭宵山。
同じく、その宵山を題材にした作品があると知って、読んでみることにしました。
6つの短編からなる、連絡短編集です。
作品に共通しているのが、宵山当日(もしくはその日に向けた日々)を、題材にしていること。
しかしその内容は、異界に取り込まれてしまいそうな怖い話から、宵山を舞台に繰り広げる壮大ないたずらまで、色合いが異なる作品が並べられています。
それぞれの短編の中で登場人物がリンクしているので、「同じ世界を描いているのだな」と気付かされます。
「あとがき」にあるように、お祭り、特に祇園祭宵山の持つ、”怖ろしさ”と”楽しさ”双方の感覚を、表現した作品なのだなあと、受け取りました。
『聖なる』とは違い、格式の高い?文体が用いられています。
京都という限られた題材を扱いながらも、ひきだしの多い作家さんなのだなあと、感じました。
今回も森見ワールドに浸れたので、今後もまだ読んでいない作品を探して、取り組んでいきたいと思います。

2017年6月26日

読書状況 読み終わった [2017年6月26日]
カテゴリ 小説

『楽園のカンヴァス』『ジヴェルニーの食卓』など、絵画や画家を題材にした小説を発表している、原田マハ。
僕もこれらの作品を読んで、美術に対する興味を深めさせてもらいました。
その原田マハが美術鑑賞についての新書を発表したと知って、電子書籍版で読んでみることにしました。
題名の通り、「印象派」の象徴的な存在で、著者自身も大きく影響を受けたという、クロード・モネが主題になっています。
モネとはどのような画家だったのか、印象派と言われる絵画はどのような特徴があるのか。
印象派の絵画がどのような点で、それまでの絵画と違っていたのか、本書を読んで頭を整理することができました
また日本や日本人との関係についても、ページを割いて書かれています。
これまで日本各地の美術館を見て回っていて、「なんでこんなにモネの絵があるのだろう」と不思議に思っていたのですが、本書を読んでようやく、納得することが出来ました。
専門的な知識を持った人には、既知の内容が多いのかもしれませんが、僕のような美術鑑賞初心者にとっては、気づかせてもらえる部分の多い一冊でした。
個人的には、このような形でアンリ・ルソーに関する本も発表してもらえれば、と願っています。

2017年6月22日

読書状況 読み終わった [2017年6月22日]
カテゴリ 芸術

画家アンリ・ルソーを題材にした小説『楽園のカンヴァス』が面白かった、原田マハ。
自らの経験を活かした美術関連の小説、そしてそれ以外の分野の小説も、これまで楽しく読ませてもらいました。
その原田マハの、沖縄そして美術を題材にした小説が文庫化されていると知って、電子書籍版で読んでみることにしました。
小説の舞台は1948年、戦闘で壊滅的なダメージを受けた後の沖縄です。
戦勝国となり、沖縄を統治することになったアメリカ軍。
その軍医として沖縄に赴任することになった、医科大学を卒業して間もない若い精神科医が、この小説の主人公です。
休日に、本国から送ってもらった車で、沖縄の土地を走る主人公。
その途中で「NISHIMUI ART VILLAGE」という看板を見かけます。
興味を持った主人公は、その村に入り、地元の人と交流します。
するとそこは、かつて東京の芸術大学で学んだ芸術家たちが集まり、米国人相手に絵画を売ろうとしている場所だということを知ります。
その作品を見た主人公は・・・という始まり。
戦闘の結果、この地を占領することになったアメリカ人。
占領される側になった、沖縄の人々。
そして、国籍を問わず人間として共通的な価値感とも言える、芸術。
その芸術を通じて、心が通じ合う部分。
いくら交流しても、通じ合えない部分。
米国軍医と沖縄芸術家とのやりとりを通じて、戦うということはどういうことなのか、そして芸術とはどのようなものなのか、考えさせてもらえた作品でした。
読後に調べて見ましたが、ニシムイ芸術村というのは、実際に存在していたのですね。
終戦すればそれで終わりではない、戦争の恐ろしさ。
そして、芸術の持つ力。
今回も、読み応えのある、作品でした。

2017年6月19日

読書状況 読み終わった [2017年6月19日]
カテゴリ 小説

『夜は短し歩けよ乙女』など、京都を舞台にした独特な世界観の小説を発表している、森見登美彦。
まだ読んでいない作品が電子書籍化されていたので、読んでみることにしました。
舞台は京都。
マントを羽織り狸のお面をかぶった「怪人」が、京都の街に出没。
風貌とは裏腹に、街の人々に善行をして回っていることで話題になっている・・・という始まり。
なぜかその「二代目」に指名されてしまった、若手のサラリーマンが主人公。
週末はだらだらと過ごしたいという筋金入りの怠け者である主人公が、怪人という非日常的、冒険的な存在に巻き込まれてしまう姿が、全編を通じてコミカルに描かれています。
この怪人は誰なのか?という謎解き、そしてその存在を付け狙う人々との攻防が、物語の主軸になっています。
京都という街、特に祭りという特別な日の雰囲気を舞台装置に、この著者らしい、現実とファンタジーがおりまざった、不思議な世界を提示してくれています。
全体的に楽しく読める作品なのですが、休むということと、怠けるということの違い、何のために頑張るのか、など、考えさせてももらえました。
今回も不思議な読後感を味わせてもらえたので、他の作品も探して、読んでみたいと思います。

2017年6月13日

読書状況 読み終わった [2017年6月13日]
カテゴリ 小説

自分は首都圏で生まれ育ち、今も住居・職場ともに、首都圏で生活しています。
仕事やプライベートで地方に行くことはそれなりの頻度であり、宿泊することも多いのですが、地方に住むというのはどういうことなのか、本質的な部分で理解できていないのだろうなと感じています。
なので、首都圏と地方を対比させたような書籍を、意識して読むようにしています。
この本は、不動産の分野で長年活躍してきた著者による一冊。
乱暴とは思いますが、自分なりにこの本のポイントをまとめると、以下のようになるかと思います。
(1)交通網の発達に伴い、これまでは地方から東京への「上り」一辺倒で、人が移動してきた
(2)しかしその東京も、高齢化が進み、これまでのように直線的な発展は見込めない
(3)これからは、東京から地方への「下り」の人口移動に、着目すべきである
(4)そのポイントの一つは、海外から日本にやってくる「異人」の取り込みである
(5)取り込みにあたっては、既存の交通網を如何に活用するかが重要であり、ハード、ソフト両面での工夫が必要である
上記の(1)については、以前読んだ別の本でも書かれており、客観的な事実なのだなと、受け取りました。
しかしその本では「なので、より東京に集中させて国際的な競争力を高めるべきだ」と主張していたのに対し、本書では真逆の主張をしていたので、興味深く読ませてもらいました。
(4)については一過性という危険は孕んでいると思いますが、すでに地方に行った際に実感したことがあったので、当面は希望のもてる話だなと感じました。
(5)については、ハード的にかなりの投資が必要なこと、ソフト面での工夫がイメージできなかったこと、といったあたりは気になりました。
全体としては、地方都市は今の状況に絶望することなく、明るい未来を描いて努力をすべきだと、後押ししてくれている一冊だと思います。
日本全体の活性化については、さまざまな意見があるということがわかりました。
今後もこの分野の本を探して、読むようにしていきたいと思います。

2017年6月8日

読書状況 読み終わった [2017年6月8日]
カテゴリ 自己啓発

『プリンセス・トヨトミ』、『偉大なる、しゅららぼん』など、西日本を舞台に、その土地の歴史にまつわる壮大で不思議な世界を提示してくれる小説家、万城目学。
僕もその’’万城目ワールド”に魅せられている、読者のひとりです。
書店巡りをしていたら、文庫版上下巻でこの小説が平積みされていたので、電子版を探して、読んでみることにしました。
物語のはじまりは伊賀。
そして、主人公は忍者の風太郎。
冒頭に描かれる騒動によって、伊賀を離れなければならなくなった風太郎。
京の郊外でひっそりと身を潜めていた彼ですが、そこに忍者仲間、そして「ひょうたん」がやってきます。
それをきっかけに、京の街に出るようになった彼ですが、やがて望まぬ形で、諍いや、さらに大きな争いに巻き込まれる羽目になって・・・という展開。
時代的には、関ヶ原の戦いが終わった後から、大坂夏の陣で豊臣家が滅亡するまでの期間が舞台になっています。
戦国時代という特殊な時代の中で必要とされ、進化してきた、忍者という存在。
その末期に生を受け、忍者としての教育を受けるも、「落ちこぼれ」になってしまった風太郎。
そんな主人公が、伊賀の忍者という境遇、そして時代の移り変わりというものに翻弄される姿が、数々のアクションシーンを交えて描かれています。
伏線も多く張り巡らされていて、そのストーリーを追っていくだけでも楽しめる小説かと思います。
そして読み進めていくうちに、権力が移るというのはどういうことなのか、今まで必要とされていた存在が不要とされるとはどのようなことなのか、読者に考えさせるような内容にもなっています。
著者にしては全体的に暗いトーンに感じますが、細かい描写にはユーモアも交えられています。
またキーアイテムとして「ひょうたん」が取り上げられていることにより、万城目学らしい不思議ワールドに、読者を誘い込むような形になっています。
今回もその世界観に引き込まれました。
作品が発表されるたびに、違う側面を見せてくれる作家さんですね。
次作の発表を楽しみに待ちたいと思います。

2017年5月30日

読書状況 読み終わった [2017年5月30日]
カテゴリ 歴史小説

(感想は下巻にまとめて書きます)

2017年5月22日

読書状況 読み終わった [2017年5月22日]
カテゴリ 歴史小説

日本を代表する小説家のひとり、村上春樹。
長編小説については、数年に一度のペースで、作品を発表しています。
その間も、短編小説集やエッセイ集が発売されるので、それらの作品も読むようにしています。
この本は、書店で見かけた、エッセイ集の文庫版。
小説を書くことを”生業にする”とは、どういうことなのか。
35年に渡る自らの経験と、そこから得られた知見が書かれています。
「あとがき」によると、前半6章は雑誌に連載された文章、後半5章は書き下ろし、最後の1章は講演原稿、という経緯を経て、まとめられているようです。
村上春樹はどのようなスタイルで、小説づくりに取り組んでいるか。
そして村上春樹は、日本の文学界そして文学賞についてどのように考えているのか。
彼の作品のファンにとって、興味をそそられる内容が盛り込まれています。
小説を書くプロセスについて書かれた部分を読んで、「小説とは何なのだろう」と、これまでモヤモヤ考えてきたことを整理してもらえたように感じました。
ファンでなくても、小説を読む人、文章を書く人、芸術活動に取り組んでいる人には、参考になる内容ではないかと思います。
村上春樹らしい文章を読んでいっとき、渇望症状が緩和されたのですが、「次の長編小説を読みたい」という思いもより、強くなりました。
作品の発表を、楽しみに待ちたいと思います。

2017年5月16日

読書状況 読み終わった [2017年5月16日]
カテゴリ 随筆

残念ながら、2014年に57歳で亡くなってしまった歴史小説家、山本兼一。
生前に発表された作品を探しては読む、ということを繰り返しています。
書店巡りをしていたところ、この作品が文庫化されていたので、電子書籍版で読むことにしました。
本作品の舞台は、関ヶ原。
この「天下分け目の戦い」を題材にした歴史小説は、これまでも何冊か読んだことがありました。
日本の歴史に大きな影響を与えたということとともに、この合戦に至るまでの、有力者たちの有形無形の権力争いが、多くの日本人の興味を引き出しているのだと思います。
この小説が特徴的なのは、関ヶ原の合戦が起こった、その一日のみを描写しているということ。
徳川家康、石田三成といった主役級から、伝令や”刺客”として動いた者まで。
関ヶ原という現場にいた多くの人物の視点から、この日の出来事を時系列で描写しています。
事前にどのような準備がなされ、それが当日、どのような形で実行に移されたのか。
武将たちの心理面も含め、読者が追体験できるような内容になっています。
大きなテーマになっているのが、「裏切り」。
そして、「何のために戦うのか」ということ。
武将たちがどのような考えを抱き、行動に移したか。
そしてその行動は、後になってどのような結果、評価を得ることになったのか。
「戦」としての決着はついても、その結果だけで判断されるのではないということに、思い至らせてもらいました。
魅力的な作品を残している作家さんですね。
まだ未読の作品もあるようなので、今後も探して、読むことにします。

2017年5月11日

読書状況 読み終わった [2017年5月11日]
カテゴリ 歴史小説

『しゃばけ』シリーズで、”江戸を舞台にファンタジー”という新しいジャンルを提示してくれた、畠中恵。
代表作の『しゃばけ』シリーズを含め、江戸時代や明治時代を舞台にした作品を、数多く発表しています。
その畠中恵が珍しく?現代を舞台にしているのが、『佐倉聖の事件簿』シリーズ。
とある事情で、元大物政治家に関連する事務所でアルバイトをしている大学生、佐倉聖が主人公。
そのシリーズ第2作が文庫化されていたので、読んでみることにしました。
大学3年生になった聖は、事務所でのアルバイトをやりながらも、熱心に「就活」に取り組んでいます。
これまた事情があり、中学生の弟を養わなくてはいけない彼は、安定した会社への就職という、いささか漠然とした希望を抱いて面接などに励んでいます。
しかし有名な元大物政治家とのつながりがある彼には、コネ入社のお誘い等、さまざまな横やりが入ってきます。
今回の作品は、そんな主人公・聖の就活にかかわる五つのエピソード+アルファが、連作短編集の形でまとめられています。
つぎつぎと起こるもめごとや事件を、聖とその周りにいる政界関係者たちがどのように解決していくのか。
個性豊かな登場人物たちによって、コミカルに展開していきます。
住民の声を聞く。
そして複数の声を調整し、不公平感を与えないように実現していく、政治家という職業。
その怖さとやり甲斐を知ってしまった、主人公。
政治の世界に本格的に入り込むのか、それとも”まっとうな”道に進むのか。
謎解き小説が好きな人、政治の世界を垣間見たいという人には、興味深く一冊ではないかと思います。
今回も楽しく、読ませていただきました。

カテゴリ 小説
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ノーベル文学賞候補として毎年話題になり、「国民的作家」として取り上げられることが多い、村上春樹。
自分もその作品の発表を心待ちにしている読者の一人です。
文庫版が続けて発表されたようで、その中からまず、この短編小説を読むことにしました。
著者自身による「まえがき」によると、9年ぶりの短編集とのこと。
6つの短編小説が、納められています。
それぞれの話は独立していて、相互の物語はリンクしてはいません。
でも6つの作品に共通しているのが、主人公が全員、男性であること。
そして時期や相手、また理由はまちまちですが、身近にいた女性を失った経験があるということ。
現在から過去を振り返るような形で、主人公たちが自らの心と対峙していく姿が描かれています。
とはいえ、どれもが似た作品というわけではありません。
作品によっては、どのようなシチュエーションで展開している話なのかわからなかったり、「この後、どうなったんだろう」と疑問を持たせたまま終わるものなど、個性的な作品群となっています。
不思議な感覚を提供しながらも、それぞれの作品にテーマが散りばめられている。
そのテーマについて、読者が考えながら読み進める。
そんな、村上春樹ワールドが展開されています。
今回もその世界にどっぷりはまらせていただきました。
短編も読みたいけれど、新作長編も読みたい。
次回作の発表を、楽しみに待ちたいと思います。

2017年4月18日

読書状況 読み終わった [2017年4月18日]
カテゴリ 小説

魚がとれなくなった、日本人は魚を食べなくなった、漁業をやめる人が多い・・・。
日本の水産資源や漁業については、このような寂しい話題を、耳にする機会が多いなと感じています。
この本はそんな日本の漁業について、どのようなことが起こっているか、なぜ起こっているか、ではどうすれば良いかということを論じた一冊。
前半では各種データを提示して、日本の漁業の危機的な状況を示しています。
そしてその要因として、日本の排他的水域内の漁業が「とりすぎ」であること、その背景として国レベルのルールづくりが遅れていることを、主張しています。
全体を通じて感じたのは、「このままではいけない」ということ。
世界全体の水産資源の消費量が増えたこと、その影響を受けて中国等近隣国の漁船により、水産資源が乱獲されていること。
日本の中ではこのような認識が広まっていますが、輸出入のデータ等を提示して、著者はそのような考えを否定しています。
原因は、日本自身にある。
対策として、他国で成功した事例が挙げられています。
日本にはあてはまらないといった反論があるようですが、著者が提示するデータを見る限りでは、効果的な対策を講じない限り、現在の状況は変わらない、さらに悪化してしまう状況にあるのだと理解しました。
自然を対象にしているので、影響する要因は多くあり、その解釈によりさまざまな意見はあるかと思います。
今後も関連する書籍を複数読んで、この分野についての知識、考えを深めていきたいと思います。

2017年4月12日

読書状況 読み終わった [2017年4月12日]
カテゴリ 国際人

1994年、日本人を含む9人の漁師が、37日間の漂流を経た後にフィリピン沖で保護された・・・。
この本は、生存者の中で唯一の日本人だった船長を追った、ノンフィクション作品です。
約20年後に本人に取材しようとした著者は、その妻に衝撃的な話を聞きます。
それは、船長は10年前に漁に出たまま、行方不明になっている、ということ。
その事実に驚いた著者は、現地に赴き、彼の関係者を訪ね歩いて、1回目の漂流の様子と、2回目の漂流に至った経緯を調べます。
その過程で見えてきたのが、船長が生まれ育った沖縄県宮古島群島伊良部島佐良浜という地域の、特殊な郷土史とそこに暮らす人々について。
海に出れば食料を調達できる、逆に言うと漁師しか生活する術が無い、という環境。
その中でも特に、外部思考の強い佐良浜の漁師たち。
遠くグアムやパラオまで漁をしに行き、大きな富を得る。
でもしばらくすると、その漁が成り立たなくなる。
そんな、繁栄と衰退を繰り返してきた人たちだといことがわかってきます。
主人公である船長の足跡を追うことによって、海洋民としての佐良浜の人たちの気質や、その行動原理への理解が深まっていく、という内容になっています。
継続的に海に行く機会があり、海に関する情報には日常触れているつもりでいましたが、本書の内容にはただただ、驚いてしまいました。
同じ日本という国の中に、このような地域、そしてそこに住む人の人生がある。
「事実は小説よりも奇なり」・・・あらためて感じさせてもらえた、ノンフィクション作品でした。

2017年4月6日

読書状況 読み終わった [2017年4月6日]

自分自身が写真を撮ることもあり、アートに対する興味が年々、高まっています・
美術館巡りをして実際の作品を見ると、しばらく前を動けなくなるような、大きな感動を受けることも多々あります。
しかし逆に、「なぜこの作品が評価されるのだろう?」と、疑問に感じることもしばしばあります。
この本は、2005年に逮捕された、贋作作家による自叙伝。
ピカソ、シャガール、ダリ、マティス、ルノワール、フジタ・・・現在も人気があり、権威ある美術館にその作品が所蔵されている、有名画家たち。
著者は、これらの画家たちの贋作を長年に渡って作成し、売ってきたと言います。
しかもその作品というのは、既存の作品の複製ではなく、その作家”風”の「新作」。
逮捕されたことにより、多くは廃棄されたとのことですが、現在でも彼の作品はオークション等で取引されていると言います。
少年時代には路上生活も経験し、名の通った美術学校に通ったこともない著者が、どのような経緯で贋作作りをするようになったのか。
少年時代から執筆時までの半生を振り返り、「俺」という一人称で描いています。
贋作作りの具体的な手段についてはここでは触れませんが、アートの才能に恵まれた著者が、数少ないチャンスを活かし高度な芸術を身につけるに至った経緯が、本書を通じて理解できました。
残念なのは(そして本人にとっての長年の悩みは)その努力と才能を自らの作品という形で発表し、評価を受けられなかったこと。
芸術作品がどのような経緯を経て作られ、売買されているか。
リトグラフや修復などの話を読むと、「どこまでが本物で、どこからが模倣・贋作なのか」わからないなあと、感じました。
破天荒な人生の描写部分だけでも驚きが多く、アートに興味が無い人にも、読み物として楽しめる一冊だと思います。

2017年3月29日

読書状況 読み終わった [2017年3月29日]
カテゴリ 芸術

『天地明察』『光圀伝』といった話題作を発表し、人気作家となった冲方丁。
自分もこの作家さんの作品をチェックしている、読者のひとりです。
書店巡りをしていたら、この長編作品が文庫化され平積みされていたので、電子書籍版を探して、読んでみることにしました。
本作の主人公は、『枕草子』を書き残した清少納言。
一条帝の妃、定子の女房として仕えた日々を、清少納言が回想する一人称で、書き綴っています。
恥ずかしながら、『枕草子』は現代語訳を読んだことがなく、平安時代に清少納言によって書かれたこと、当時の宮廷での生活について現代で言う随筆風に書かれた作品であること、というレベルの認識しか持ち合わせていませんでした。
なのでどこまでが『枕草子』に書かれていることで、どこからが他の資料を踏まえた本作のオリジナルの部分なのかは、わからないまま読み進めました。
初歩的な部分で驚いたのが、清少納言が活躍していた時代というのが、藤原道長という、この時代に栄華を極めた人物の隆盛期と、重なっているのだということ。
全編を通じて、道長を中心とした権力抗争が描かれているので、この人物がなぜ、どのように、朝廷で重要な地位を得ることが出来たかということを、具体的なイメージを持って理解することが出来ました。
そしてこの小説の題名にもなっている、「はな」。
漢字では「花」、とも「華」とも表されていますが、この概念が小説のテーマとして繰り返し提示されているので、平安王朝という時代の空気や、政治を動かしていた価値観といったものを、感じ取ることができました。
従来の現代語訳を読み込んできた人にとっては、注文をつけたくなる部分はあるのかもしれません。
でも、予備知識のない自分にとっては、この時代の雰囲気を味わう入口として、楽しめる作品でした。

2017年3月27日

読書状況 読み終わった [2017年3月27日]
カテゴリ 歴史小説

とある事情で武士をやめ、商人(損料屋)として生計を立てることになった若侍。
損料屋として商いを展開する一方、「裏の顔」として、武士だったころの上司からの指示、相談に応じて揉め事を解決する。
そんな主人公、喜八郎が活躍する『損料屋喜八郎』シリーズの、第3作です。
今回は、寛政四年(1792年)6月のシーンから、始まります。
寛政元年に発布された、棄捐令。
俸禄米を担保に武士が札差屋に借りていた借金を帳消しにしてしまった、という大掛かりで一方的な、金融政策。
逆に、そんな仕打ちを受けた札差屋たちは武士に金を貸さなくなり、江戸の町の景気はめっきり冷え込んでしまいます。
そんな状態が3年あまり続いた、江戸の町。
景気回復を図ろうと、幕府は新たな金融政策を、計画します。
そして大きな動きがあると起こるのが、この機に乗じて儲けようと企む悪人による、「騙り」。
大規模な騙りと、それを阻止しようとする喜八郎の活躍が、今回の作品の主軸になっています。
シリーズも3作目となり、主人公や主要人物の”掛け合い”も、本作の読みどころになっています。
江戸の市井の人々、そして金融政策という題材でこのような小説が書けるのかと、今回も感心しながら読み進めました。
このシリーズとして発表されているのは、この第3作まで。
でも、まだこの先につながるような終わり方をしているので、シリーズ再開を、楽しみに待ちたいと思います。

2017年3月22日

読書状況 読み終わった [2017年3月22日]
カテゴリ 歴史小説

山本一力『損料屋喜八郎始末控え』シリーズ第2弾。
以前は武家だったものの、訳あってその身分を返上し、商人(損料屋)となった若侍、喜八郎が活躍するシリーズです。
今回も舞台は、18世紀末の江戸。
武士たちが札差(俸禄米の売買と、俸禄米を担保に貸金をする商人)から借りていた借金を帳消しにしてしまった、棄捐令。
前作ではその棄捐令の発布時、およびその直後の混乱が、描かれていました。
今回の作品では、棄捐令が出されてから一年余り、めっきりと景気が冷え込んだ江戸の街から、話が始まります。
そんな不景気なご時世でも、逆に、そのような時だからこそ起こるのが、「騙り」。
金を持っていそうな人にすり寄り、ありもしない儲け話をして金を巻き上げようとする、悪人たち。
そうはさせじと立ち回る、主人公喜八郎一味の活躍が、描かれています。
前作同様、棄捐令発布による江戸の経済情勢が、作品のベースとなっています。
それに加えて、主人公喜八郎の恋愛を大きく取り上げるなど、登場人物たちの生活や心情の描写にも、重点が置かれています。
前作以上に、感情移入して読むことが出来ました。
このシリーズはこの後も続いているようなので、間を空けず、読んでみたいと思います。

2017年3月15日

読書状況 読み終わった [2017年3月15日]
カテゴリ 歴史小説

商社勤務、美術館勤務(キュレーター)という異色の経歴を持つ小説家、原田マハ。
この方が小説に取り上げる題材は自分の好みに合うようで、電子書籍化されている作品を探しては読む、ということをここ数年繰り返しています。
本作は、「スピーチライター」という職業を取り上げた、お仕事小説。
主人公は、お菓子メーカーの総務部に勤める、20代後半の女性。
一般的な生活を送っていた彼女ですが、ある日、出席した結婚式で感動的なスピーチに出会います。
そのスピーチをした女性の職業は、「スピーチライター」。
巡り巡って、主人公自身がスピーチライター”見習い”として、選挙活動に携わることになって・・・という展開。
主人公の女性がスピーチライターとして成長していく姿、そして選挙戦の展開が、物語の大きな流れとなっています。
そして全体を通じて、いかに「言葉の持つ力」が大きいかについて、考えさせられました。
また21世紀の選挙というものがどのような形で行われているかについても、勉強させてもらいました。
ふだん自分が接しない世界に触れられるというのも、小説の大きな魅力の一つですね。
今回も楽しませてもらったので、他の作品も探して、読んでいきたいと思います。

2017年3月6日

読書状況 読み終わった [2017年3月6日]
カテゴリ 小説

年齢を重ねても、「上手く出来るようになった」と思えないことのひとつが、コミュニケーションや人間関係。
周囲の環境が変化することもあり、この分野については意識的に本を読んで、自分の行動を見直すきっかけにしようと思っています。
この本は、アメリカの心理カウンセラーによる一冊。
60年前に発表されて、本国では名著として位置づけられていたようですが、その邦訳が出版されたということで、読んでみることにしました。
冒頭にまず、「幸福な人とは、人間関係の技術にたけた人だ」と定義しています。
以降、具体的なテクニックを紹介しながら、いかに豊かな人間関係を築いていくか、読者に指南しています。
具体的な内容については、これまでに読んできた類書と共通する項目が、いくつか見受けられました。
「それだけ普遍的なことなのだなあ」「出来ていないのであれば自分の行動を見直さなければいけないなあ」と、反省させられました。
たとえば、「言葉を発する前にほほ笑みを浮かべる」など、すぐに実行したいなと思うテクニックもあったので、恥ずかしがらずに、実践していきたいと思います。

2017年2月27日

『あかね空』で直木賞を受賞した作家、山本一力。
これまでこの方の作品を何冊か読み、特に「江戸の市井に生きる人を主人公にした時代小説が、得意な作家さんだなあ」と、感じていました。
その山本一力のデビュー作がKindle化されていると知り、読んでみることにしました。
舞台は寛政年間(18世紀末)の江戸。
以前は武家でしたが、訳あって、その身分を返上し商人(損料屋)として生計を立てている喜八郎が、主人公です。
江戸勤めの武士たちが身分に応じて幕府から受け取る、俸禄(米)。
その俸禄をお金に変える、さらには出費の多い武士たちが俸禄を担保にお金を借りる。
江戸の町でその取引をすることが出来るのが、109店のみの、札差という商人たち。
この仕組みが動き始めて長い年月が経ち、武士たちの借金は増えるいっぽう。
逆に、利息収入を得る札差たちは、周囲が迷惑するほどの、豪勢な暮らしをしています。
武士たちの窮状を見かねた幕府は、札差に対する武士の借金を、帳消しにしてしまいます。
この「棄捐令」に関する騒動の中で、主人公喜八郎が札差そして幕府役人と渡り合い、切り盛りしていく姿が、この小説のテーマとなっています。
先に読んだ作品(発表はこの作品の後)の中にも、棄捐令を扱った作品があったので、この作家さんにとっては重要なテーマなのだなあと、受け取りました。
最初の作品ということで、状況説明等、理解し辛い表現も見受けられました。
しかし、登場人物それぞれの感情表現、そしてラストに向かって盛り上げていく物語の進め方は、さすが後の直木賞作家だな、と感じました。
この主人公については、続編作品が発表されているようなので、続けて読んでいきたいと思います。

2017年2月23日

読書状況 読み終わった [2017年2月23日]
カテゴリ 歴史小説

組織論や日本人の特性に関する文章を読んだ際に、何度か、この『失敗の本質』が引用されていることがありました。
「名著」と呼ばれる本はなるべく読むようにしよう、と思っているので、Kindle版を探して、読んでみることにしました。
本著が企画されたのは、昭和50年代。
防衛大学の関係者が中心となった研究会の活動が、ベースとなっています。
その研究テーマというのが、昭和20年に終戦を迎えた大東亜戦争に「なぜ日本は負けたのか」ということ。
大東亜戦争の前段となった昭和14年のノモンハン事件から、戦争終末期昭和20年の沖縄戦まで。
一連の戦争のターニングポイントとなった6つの作戦(戦闘)を取り上げて、「なぜ負けたのか」を詳細に考察しています。
その上で、6つの事例に共通する問題は何かを抽出し、日本の組織はその教訓から何を学ぶべきかを、提言しています。
多くの論点が盛り込まれていますが、大きなポイントとして印象に残った部分を、自分なりに要約します。

1)戦略が間違っていると、いくら巧みな戦術を計画・運用することができてたとしても、失敗という結果に陥ってしまう。
2)戦略を立てる際に、自らの成功体験に縛られてはいけない。環境の変化によって、過去に成功した戦略が、現在に適合しない場合がある。
3)目的は明確にしなければならない。検討の際には、当面対処すべきことだけでなく、長期的な視点に立ち、どう決着をつけるかまでを考える必要がある。
4)目的や戦略は、その達成に向けて活動する組織内に周知徹底する必要がある。そうしなければ、各部門や各人が個別の判断によって、目的に合致しない行動をとってしまう場合ががある。
5)人がどのように考え行動するかは、各人が受けた教育に大きく影響を受ける。人材の育成はその内容も含めて、国家や企業といった大きな枠組みで慎重にかつ柔軟に計画運用する必要がある。

戦後70年以上が経過しているので、戦争の教訓によって日本の社会、組織が改善された部分もあるかと思います。
しかし現在でもこの本が重要視されているということは、本質的に変わっていない部分が、まだまだあるのだなあと理解しました。
専門家による記述のため、自分には理解しづらい部分もありました。
しかし、戦争初期の戦闘において日米の力量差がそれほど大きくなかった等、大東亜戦争に対する認識を改めてもらえる部分も、多くありました。
日本人の特性や組織の問題に興味がある人は、読んでおくべき一冊だと思います。

2017年2月20日

読書状況 読み終わった [2017年2月20日]
カテゴリ 日本史

「やらなくてはいけない」と思っていることがあっても、別のことを考えてしまう、飛び込んできた情報に反応してしまう。
そんな集中力のない自分に気づき、”改善しなければ”と感じることが、日常生活で多々あります。
その”集中力”について書かれている本があると知って、「自分の悩みを解決するヒントが得られるかもしれない」と期待して、読んでみることにしました。
本書は大きく、7つのパートで構成されています。
人間が何かに注意を向ける、集中するということはどういうことなのかをまず定義し、その要素となる、自己への集中、他者への集中、外界への集中それぞれについて、解説しています。
その上で、どのようなトレーニングにより集中力を高めることができるかを紹介し、最後に、組織を率いるリーダーに求められる集中力を提示しています。
各章の中でまず、関連するエピソードを紹介し、その上で著者の考察を展開していくというパターンで書かれているので、本のずっしりとした外観よりは、取り組みやすい内容になっているかと思います。
自分がいま、集中力を失っているなと感じた時に、本書に書かれているどの状態にあるのかを意識すれば、改善出来るかもしれない、と前向きな気持ちにさせてもらえました。
集中力を高めるトレーニング方法については、もう少し具体的な事例を知りたいなと思いましたが、本書に書かれていることを参考に、自分なりに取り組んでみたいと思います。

2017年2月16日

読書状況 読み終わった [2017年2月16日]
カテゴリ 自己啓発

*単行本のKindle版で読みましたが、現在は文庫版に移行しているため、単行本で登録しました。

『のぼうの城』が話題となり、人気作家の仲間入りをした、和田竜。
その和田竜の本屋大賞受賞作ということで、満を持して、電子書籍版で読むことにしました。
時代は戦国、天正年間。
急速に勢力を拡大した織田信長の陣営が、大阪本願寺の明け渡しを要求。
本願寺側がそれを拒絶したことにより起こった、”石山合戦”が舞台になっています。
織田方の砦に囲まれ、いよいよ窮した、本願寺勢力。
本願寺に籠る5万人もの信徒は、その食糧をどうやって手に入れるのか。
その最後の望みとして頼ったのが、毛利家。
陸上を囲まれた本願寺にとって、補給路として残されたのは、海路のみ。
戦闘が想定される、この海路輸送を実現出来るのか。
その鍵となったのが、当時、瀬戸内海の海上を事実上支配していた、「海賊」村上家。
本願寺は毛利家の協力を得られるのか、毛利家は村上家の協力を得られるのか・・・という始まり。
歴史的に「第一次木津川合戦」と呼ばれている攻防の、前段の駆け引き、そしてその激しい戦闘が、この長編小説の題材となっています。
そして、物語を通じて描かれているのが、戦国時代の人々が「何のために戦っているのか」ということ。
その目的を考えること、その目的を達成するには、いかに残酷なことをしなければならないかということ。
さらには、その目的を達成するだけで良いのか?ということ。
人と戦わなければいけない、ということがどういうことなのか、読者に問いかけるような内容になっています。
とは言え、全編を通じて、エンターテイメント性の高い小説だなあと感じました。
主人公の設定や会話部分の文体、戦闘シーンの描写などは、読者によって好き嫌いがわかれるかと思います。
反面、参考文献の記述を随所に織り込み、史実との適合性にも配慮した書き方になっています。
400年以上前に起こったことを、いかにわかりやすく、かつ読者が興味を持つような形で文章として表すか。
歴史小説はまだまだ発展出来そうだなあと、感じさせてもらえた作品でした。

2017年2月9日

読書状況 読み終わった [2017年2月9日]
カテゴリ 歴史小説

(感想は下巻にまとめて書きます)

*単行本のKindle版で読みましたが、現在は文庫版に移行しているため、単行本で登録しました。

2017年2月7日

読書状況 読み終わった [2017年2月7日]
カテゴリ 歴史小説

最初に読んだ『楽園のカンヴァス』が面白かった、原田マハ。
おりを見て、これまでに発表された小説を読んでいます。
今回はKindle版が発売されている文庫の中から、この作品を選んでみました。
4つの短編が、収められています。
表題となっている作品の主人公は、女性社長。
会社の業績を拡大してきた彼女ですが、苦楽を共にしてきた秘書から突然、「会社を辞める」と言われます。
釈然としない気分の中、時間をやりくりして、その秘書に手配してもらった旅行に出かける主人公。
しかし、沖縄に行くはずだった旅行の行き先がなぜか、北海道の女満別になっていて・・・という始まり。
4作品中の3作品が、女性が一人で旅をする、という設定になっています。
社会的な成功を得ながらも、なぜかモヤモヤした気持ちを抱いて、人生の分岐点とも言える40歳前後を迎えた女性たち。
そんな主人公たちが、日頃の肩書きの通じない旅先で人と出会い、自らを省みる。
その過程が、ユーモアと情感を込めた、この作家さんらしい筆致で、描かれています。
女性の読者を意識して書かれた作品なのかもしれませんが、男性の自分にも十分、楽しめる内容でした。
旅というのも、原田マハ作品の重要なキーワードですね。
今回も楽しく読めたので、これからも作品を探して、読んでいきたいと思います。

2017年1月31日

読書状況 読み終わった [2017年1月31日]
カテゴリ 小説
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