昭和天皇伝 (文春文庫 い 90-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2014年3月7日発売)
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感想 : 13
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*この文章は、歴史上の人物としての昭和天皇を描いた作品の感想文のため、敬語を使用していません。

60年以上という、歴代最長の期間に渡り在位した、昭和天皇。
自分自身は、昭和天皇の晩年、一般参賀等のTV報道での姿を目にしたという経験しかないのですが、じっと前を見据えた立ち姿に、他の人物にはない、強い意志のようなものを感じた記憶があります。
これまで、戦争との関連を含め、天皇というある種「近寄り難い」存在について、本を読んだり語ったりすることにためらいを感じていました。
しかし、自分が暮らしている日本という国を理解するには、天皇の存在ということについてある程度、知っておかないといけないと考え、関連する本を読むことにしました。
この本は2011年に出版された一冊。
出版当時、複数の昭和天皇関連本が同時期に発表されて、話題になっていたという記憶があります。
約3年を経て文庫版が出版されたので、読んでみることにしました。
昭和天皇の誕生から亡くなるまでを、伝記形式で時系列にそって記述しています。
第一部は誕生から天皇に即位するまで、第二部は立憲君主として日本を統治していた期間、そして第三部は戦後の象徴天皇としての期間という形に、大きく三部に分けられています。
著者はまず第一部で、立憲君主として国民から大きな期待を受けていた天皇の姿を描いています。その中でどのような教育を受けて成長していったのか、そして本書のキーワードの一つである「生真面目な性格」に関するエピソードも記述されています。
第二部では、国民の期待を受けて即位した「やる気に満ちた」天皇が、日本を統治していく中で挫折を経験しダメージを受け、その状態で戦争という大きな波にどのように対峙したのかが描かれています。
第三部は日本という国をどのように変えていくべきなのか、その中で自分はどのような役割を担うべきなのかを考え、日本という国に向き合う姿が描かれています。
恥ずかしながら、本書を読んで始めて、立憲君主としての天皇が(形式的な存在ではなく)日本の政治に大きな影響力を持っていたということを知りました。
そして、好奇心旺盛な天皇が、報告された情報を咀嚼し、大所高所に立って、日本という国を導いていたのだなあと理解しました。
そのような見識、判断力があったからこそ、戦後も長らく、政治家たちは天皇に報告を行い、時には助言を受けていたのですね。
明治憲法の中での立憲君主という位置づけと、新憲法の中での象徴天皇という位置づけの両方を経験したという意味では、歴代の天皇の中でも稀有な存在だったのではないかと、本書を読んで感じました。
著者の主観によって、取り上げる題材に強弱はつけられているとは思いますが、一人の人物としての昭和天皇を知りたいという自分には、とてもフィットする一冊でした。
昭和天皇に関しては数多くの著作が出版されているようなので、他の著作も読んで、理解を深めていきたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本史
感想投稿日 : 2015年1月21日
読了日 : 2015年1月21日
本棚登録日 : 2015年1月21日

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