「粗にして野だが卑にあらず」
ジョード家は今でいうDQN「風」だが、人間、本書の言葉では「民」そのものである。アメリカ人として労働への誇りを持ち、どれだけ自分たちが困窮していても、自分たちよりも貧しい人がいれば助ける。正しいと思う行為は法に触れることを厭わずにやり遂げる。
民を搾取し、痛めつける「資本」という怪物は決して正体を現さない。資本は「自由競争」という貧者同士が相争うシステムを作り上げ、貧しいものをより貧しくさせ、良心的なものを残忍なものに変え、多くのものの不幸を喰らって膨れ上がる。
民が人間として生き延びるには不確かな希望を頼りにした団結しかないのだが、団結を分断する手段は多彩で、狡猾で、しかも効果的である。民は負ければ死ぬが、資本は死なない。「金は命より重い」というあのセリフが響いてくる。
絶望的な状況の中、神も貧者には味方しない。雨は富める者、貧しき者平等に降るのではなく、貧しい者だけをことさらに痛めつける。
それでも「民は死なない」と信じる人々の姿は崇高で、客観的に見ればグロテスクなはずのラストシーンは宗教画のような美しさを感じさせる。
...本書は大恐慌前の話である。現在、民はまたしても死にかけている。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2016年10月3日
- 読了日 : 2016年10月1日
- 本棚登録日 : 2016年9月11日
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