600ページと大部だが読みやすく、わかりやすい。数式が2、3出てくるが具体例をあげて解説してあり、ゆっくり考えれば頭に入る。
経済学というより社会学、政治学のテーマ「社会はどうあるのがよいか」について考察した内容である。
格差について論じているが、イデオロギー的な「結論ありき」の展開ではなく、まず富の偏在について現状、時系列の推移、国別の比較、十分位・百分位・千分位... のデータを提示し、経済成長率(生産性向上+人口増加)のパラメータを調整したシミュレーションによる将来予測を語る。その上で、考えられる案をいくつか提示し、現実解を導く合意形成プロセスを語る。わかりやすいプレゼンを見ているようだ。
著者の主張は歴史的・長期的視点に立脚した経験主義にもとづいており(フランス人なのに?!)、とても共感できる。
提案されている資本税について「実現性が低い」という批判はあるが、著者が真に提案しているのは解決案そのものではなく、解決案を民主主義的プロセスにもとづいて検討するための情報の共有、金融情報の「透明化」であり、それもいきなり世界的な情報データベースを構築するのではなく、「できるところから」始めようとしている。
経済成長の鈍化、資本それ自体の自己増殖性、暴力的な金融グローバリズムの発展、新自由主義の隆盛等、将来について楽観できる要素はほとんどない。過去を振り返ると、格差を解消したのは二つの世界大戦だったという非情な現実がある。
それでも著者は民主主義への信頼を失っていない。何ももたない下位50%の人々に教育と福祉を提供することで、庇護ではなく社会に参加する道を閉ざさない方法を模索している。
良書だと思う。
- 感想投稿日 : 2015年5月6日
- 読了日 : 2015年5月5日
- 本棚登録日 : 2015年4月26日
みんなの感想をみる