苅谷剛彦,志水宏吉[編]
■体裁:A5判・並製・カバー・308頁
■品切
■2004年12月22日
■ISBN:4-00-022443-3 C0037
誰の何の学力の低下なのか.学習の仕方や意欲はどう反映するのか.カリキュラムのどこでつまづきが生じるのか.子どもの学力の実態と階層の関係を明らかにした画期的大規模調査(2001-2002年)を総括し,処方箋としての「効果のある学校」像を模索する.イメージや理念ではない「学力」に迫る先駆的研究.
https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/3/0224430.html
【目次】
目次 [v-vii]
序章 「学習調査の時代」――なぜいま学力調査なのか[苅谷剛彦 志水宏吉] 001
1 能力シグナルとしての「学力」
2 制度・政策アセスメントの手段としての学力調査
3 包摂と排除の時代の学力調査
4 調査の概要と本書の構成
注・参考文献
第 I 部 個人の学力と学習
1 教育課程行政と学力低下――関東調査による検討………耳塚寛明 021
1 問題と調査の概要
2 学力低下とその検討
3 教育課程行政と学力問題
参考文献
2 「学習遅滞」と「学習速進」はどこで起こっているか………諸田裕子 037
1 はじめに
2 「学習遅滞」と「学習速進」の発生状況
3 「学習遅滞」が生起する教育内容
4 誰が「学習遅滞」なのか?
5 おわりに
注
3 教科領域別の学習達成度の変化(中学校編)………清水睦美 057
1 はじめに
2 「積み重ね学習」としての数学
3 「知識設問」「思考設問」による国語の学習達成度
4 学ぶことの意味――「学習レリバンス」構造のジェンダー差異………本田由紀 077
1 問題関心と分析課題
2 「学習レリバンス」の分類と構造
3 「学習レリバンス」の規定要因
4 「学習レリバンス」の帰結
5 まとめと考察
注・引用文献
5 教室の授業場面と学業達成………山田哲也 099
1 問題設定と本章の概要
2 日本の教育過程行政の転換
3 教師たちの授業スタイルと学業達成
4 小括と今後の課題
注
第II部
6 「学力」の階層差は拡大したか………苅谷剛彦 127
1 問題の設定
2 階層差の現状
3 1989年から2001年への変化
4 公立学校の役割
5 結論
注・参考文献
7 学力の規定要因――家庭背景と個人の努力は,どう影響するか………金子真理子 153
1 はじめに
2 調査の概要
3 階層による学力差,努力による学力差
4 高学歴層の「初期的優位性」と低学歴層の挽回可能性
5 問題の難易度が高まると努力の効用はかわるか?
6 受験塾通塾者を除いた分析
7 おわりに
注・参考文献
8 ポスト学歴社会の学習意欲と進学意欲………堀健志 173
1 学歴社会のゆらぎ原因説の批判的検討
2 「学歴社会の変容と意欲」にかんする先行研究
3 ポスト学歴社会という視覚
4 分析
5 結論
6 今後の課題
注・参考文献・引用文献
9 誰が落ちこぼされるのか――学力格差がもたらす排除と差別…………鍋島祥郎 197
1 ソーシャル・エクスクルージョン
2 同和地区児童・生徒への注目
3 同和地区児童・生徒の学力実態
4 同和地区児童・生徒の学力低下
5 同和地区家庭の階層的位置
6 身分要因 vs. 階層要因
7 身分と階層の重層関係
8 もっとも不利な社会階層的条件の中で基礎学力習得を左右する事柄とは
9 同和地区生徒に固有の学力問題を探る
10 マイノリティの社会観
11 拡大する属性の影響
12 インクルージョンへの道のり
注・引用文献・参考文献
10 低学力克服への戦略――「効果のある学校」論の視点から………志水宏吉 217
1 はじめに
2 なぜ「効果のある学校」論なのか
3 学力の実態把握
4 「効果のある学校」論の適用
5 何が「効果」を産みだしているのか
6 「効果のある学校」のさらなる探究へ
参考文献
11 戦後初期に「学力」の「低下」が意味したこと――〈学力調査〉から戦後新教育の批判へ………金馬国晴 237
1 はじめに
2 戦後の〈学力調査〉と戦後新教育の実践
3 生活単元学習,コア・カリキュラムと「学力低下」
4 二項対立的なコア・カリキュラム批判
5 おわりに
注・引用文献・参考文献
あとがき(2004年12月 編者を代表して 苅谷剛彦) [267-270]
資料
小学生の生活と学習についてのアンケート(関東調査) 272
担任用アンケート(関東調査) 273
小学生の生活と学習についての調査(関西調査) 277
中学生の生活と学習についての調査(関西調査) 289
執筆者紹介 [300]
【抜粋】
・「序章 学力調査の時代」より。
――――――――――――――――
1998年に文部科学省が学習指導要領の改訂を行って以後,数年間にわたり,いわゆる「学力低下論争」が繰り広げられた.学習指導要領をめぐる議論が,教育界にとどまらずマスコミを巻き込んで展開したことは記憶に新しい.そういう声に押されてか,文科省は,「学習指導要領実施状況調査」と呼ばれる,サンプリングによる全国「学力調査」を実施した.
その後,文科省にとどまらず,各地方自治体が独自に学力調査を実施するようになった.一部の地域では,全数調査を行い,学校別に結果を公表するというケースも現れた.また,最近の報道によれば,文部科学省もサンプリングによる「学習指導要領実施状況調査」ではなく,地域間の競争を促すために全国一斉学力調査の実施を視野においているとの報道もある.皮肉にもゆとりを目指した学習指導要領が本格実施された2002年以後,日本は「学力調査の時代」を迎えた.
だが,いったい,何のための学力調査なのか.調査結果は,どのように分析され,どのような知見が導き出されているのか.それらは,教育政策や教育現場の改善にどのように生かされているのか.生かす仕組みについてどれだけ考慮されているのか.こうした点から振り返ってみても,疑問だらけの調査が少なくない.
このような学力調査時代の到来をふまえ,本書は,教育社会学という専門的な立場から,学力調査を先行実施してきた研究グループによる,詳細な分析結果の報告である.
――――――――――――――――
・序章より。調査の概略。
――――――――――――――――
2 制度・政策アセスメントの手段としての学力調査
このような技術的限界を承知した上で、それでもなぜ、 学力の調査が必要だったのかについて論を進めよう。 先にも述べたとおり、今回の研究の最大の特徴は、 2時点間の「学力」 (ペーパーテストで測った学力)の変化をとらえることにあった。その理由は、 教育改革や教育政策がラディカルに変化を遂げるなかで学習成果の変化を詳細に調べることが、改革の問題点や可能性を考える上で不可欠だと考えたからである。
本書では、二つの調査データを用いた分析が行われている。 一つは、 関西地区で行われた 「関西調査」 と呼ぶものである。 これは、 大阪大学を中心とするグループが1989年に行った調査(学力・生活総合研究委員会 1991)をベースに、同一の対象校でほぼ同一の問題を用いて 2001年に再度調査を実施したものである。 対象者は小学校5年生と中学校2年生で、学力テストは算数・数学と国語、それに対象者に対する生活・学習状況アンケート調査がつけ加えられている。これらの調査の組み合わせによって、 1990年代の学力の変化、 および学力と生活要因の関係の変化をとらえることができる。
もう一つの調査は、 関東地区で行われた 「関東調査」 と呼ぶものである。 この調査は、1982年に国立教育研究所(当時) が実施した算数・国語の学力調査(天野黒須 1992) とほぼ同じ問題を用いて、 やはり同一の対象校で2002年に行った調査である。 対象者は小学1年生から6年生である。この調査の特徴は、全学年に共通の問題を出題することで、どの学年のどのような問題で学力の遅滞が生じているかを把握できるところにある。 また、同一対象校で調査をくり返すことによって、ここでも20年間を隔てた教育の変化の影響をとらえることが可能である。
――――――――――――――――
- 感想投稿日 : 2016年7月25日
- 本棚登録日 : 2016年7月23日
みんなの感想をみる