学習する組織――システム思考で未来を創造する

  • 英治出版 (2011年6月22日発売)
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「学習する組織」の原典ともいえる"the fifth discipline"の2nd editionの完訳版。
原書の2nd editionは、1st editionから100ページくらい増えていて、これまでの翻訳「最強組織の法則」は1st editionからの抄訳だった。

まずは、ざっと一読した感じは、「最強組織の法則」とは全然違う本になったな、というところかな。

580ページの厚めの本になったということもあるけど、なんだか、調子が大部違う感じだ。

「最強組織の法則」を読んだのが大分前なので、ちゃんとした比較はできないのだけど、そのときの印象は、「良い事言っているけど、なんだか大雑把で、一貫性ないな」という感じだった。

同時期にたまたま読んだ「ビジョナリー・カンパニー」が、かなりしっかりとした実証研究のうえになりたちつつ、そういう実証的な本が陥り勝ちな「そんなの当たり前じゃん」的な退屈さからはすごく遠い、スリリングで明快な主張を持つ本だったのとは対照的で、「最強組織の法則」は、「で、それがうまくいく証拠あるの?まだまだ頭で考えただけじゃん」という印象であった。

つまり、「最強組織の法則」は、なんだかピンと来ない本だった。

で、今回の翻訳だが、「そうそうそうなんだ!」と共感しまくり、付箋を貼り始めたら、付箋だらけになってしまった。

この数年間、「フィールドブック」を始め、「学習する組織」関係の本をいろいろ読んできたので、理解度が深まったということもあるが、初版から15年を経ての実践からの学びが本のなかに凝縮されている感じだ。つまり、フィールドブックや「出現する未来」など1st edition以降に出された本のエッセンスも織り込まれたまさに「学習する組織」の原典に相応しい本に仕上がっている。

あいかわらず、事例の部分は、インタビューを中心としていて、全く実証的ではないのだが、それをはるかに超える迫力と説得力をもった本だ。
不確実ななかで、これからの未来を作るのに、過去の成功事例とか、統計処理とかから、帰納的に考えてもしょうがないんだね。

それから、もともとシステム思考が最重要のディシプリンということだったはずなのだが、2nd editionでは、「自己マスタリー」のほうに重点が移った感じがした。結局、未来をつくっていくのは、なにかを始めようとするリーダーなんだよね。そして、それは役職としてのリーダーじゃなくて、一人一人のなかにあるリーダーシップ、自己マスタリーの問題なんだな。

内容も素晴らしいが、翻訳がとても信頼できる感じがして、そこがとても良い。

「最強組織の法則」が抄訳だったり、なんだか誤訳じゃないかと意味が分かりにくいところがあったので、原書と読み比べたりしていたのだが、今回の本は、原書の印象とかなり近い気がする。

前回が無理矢理ビジネス書の体裁にまとめました、という感じだったのに対して、今回の訳は、原文の内省的な感じがよくでていると思う。

ちなみに、原書の最初には、蛇が5匹とぐろを巻いていて、それを大きな蛇が囲む挿絵が入っているのだが、今回の翻訳では、これが省略されている。これを最初につけると「かなりスピリチュアルにいっちゃうな、ビジネス書っぽくない」という判断なのかな、と思ったが、個人的には、そのビジネス書らしからぬところが好きなので、ちょっと残念。

その点を除けば、素晴らしい出来だと思う。

何度でも読み返すに値する本

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年4月30日
読了日 : 2011年6月22日
本棚登録日 : 2017年4月30日

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