ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち

著者 :
  • 小学館 (2010年11月16日発売)
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私にとって本書は、全231頁のどこを読んでも、驚きと発見が溢れ出る貴重な一冊でした。

【本書抜粋 河合香織】
ワインはぶどうを作っている人が造る。つまり農作物なのだ。ブルゴーニュやボルドーでもそれは語るまでもない常識となっている。(中略)ワインは蔵の中ではなく、畑でできている。(中略)ワインは工業製品でも芸術品でもなく、農産物なのだ。
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この意味を本書は嫌というほど教えてくれます。

日本においてワイン業界を牽引してきた第一人者である麻井宇介(浅井昭吾)の遺志を引き継ぎ、世界では常識とされながら日本では不可能とされた「ワインはぶどうを作っている人が造る」ことを人生を賭けて取り組んでいる3人の若者(岡本英史・城戸亜紀人・曽我彰彦)の物語です。

それは、麻井宇介の次の言葉が原点となっています。

【本書抜粋 麻井宇介】
高い志を持ってワインを造りなさい。今までのワイン醸造の常識に従ってワインを造ればいいワインが出来るかもしれないが、人を感動させられるワインは出来ない。一度常識を捨てなさい。
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現在においても、国産ワインの8割は、濃縮マストと呼ばれるジャム状のぶどう果実を輸入して、水で薄めて発酵させたもので、それが堂々と国産ワインとして売られているそうです。
残る2割についても、多くはワイン用のぶどうではなく生食用のぶどうを使っているのが現状。さらに昨今の「無添加」という言葉にもからくりがあるそうです。

【本書抜粋 河合香織】
日本の「無添加ワイン」は自然とは程遠い、濃縮マストを水で薄めて発酵させ、殺菌のために加熱処理をして出荷しているものなのだ。(中略)たとえば、岡本は亜硫酸無添加で、無科学農薬で栽培している。しかし、そのためには、毎日ぶどうについた虫を朝から晩まで一匹一匹殺していかなければならない。そんな手間をかけてやっているワイナリーがどれだけあろうか。
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このような状況のなか、農産物としての本来のワイン造りをするために、3人の若者は、ぶどう造りに文字通り人生を賭けていきます。
「日本でヴィニフェラ(ワイン用ぶどう)はできない」という常識に真っ向から立向い、畑を開墾しヴィニフェラを真摯に栽培する-。その過程で、友を失い、家族を失い-文字通り常識への挑戦の物語です。

結果として彼らのワインはそれぞれ、「数々の国際コンクールで賞を獲得」「ブラインド・テイスティングである航空会社のファースクラスの一本に選定される」「洞爺湖サミットで供されるワインに選出」「数々の一流レストランに置かれる」など本場ヨーロッパでも賞賛されるまでになります。
本書はその壮絶な過程や3人の造り手の心情を的確に伝えてくれます。

本書を読んでいる途中、どうしても彼らのワインを口にしてみたくなり、酒屋やデパート、ネットを探しました。残念ながら3人のワインはどれも人気かつ貴重で手に入る状況にはありませんでした。
しかし、麻井宇介氏も手がけ、日本のワインに革命を起こしたとされる「シャトー・メルシャン桔梗ヶ原メルロー」はあるデパートで発見することができました。
ところが、ヨーロッパのワインがワインセラーで管理・販売されている状況のなか、そのワインは煌々と蛍光灯の明かりが降り注ぐ棚に無造作に置かれていました。
日本のワインを次世代につないでいくためには、造り手だけでなく、造り手・売り手・消費者それぞれが成熟していく必要がある-そう痛感した出来事でした。

私は著者が「あとがき」で触れている次のことと全く同じことを、読み進んでいるうちに強く感じました。そういう意味で、著者が本書で読者に伝えたかったことが、少なくとも読者の一人(私)にはストレートに伝わったと言えます。私も、自分の感性で美味しいワインを感じ、自然を楽しみたいと思います。比類なき良書です。

【本書抜粋 河合香織】
(麻井宇介から岡本英史・城戸亜紀人・曽我彰彦へ、さらにその次の世代へつながろうとするワイン造りの現状について)一体このバトンはいつまで、どこまで続くのだろうか。私は祈るような気持ちで確信する。きっとこのリレーはもはや止まることはないだろうと。そして、私たち消費者もまたワイン造りの、このリレーの一員なのだと思い至る。
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余談ですが、岡本氏・城戸氏は私の一つ先輩の1970年生まれ。曽我氏は1971年生まれで私と同年。しかも、岡本氏と曽我氏は明治大学農学部出身。おそらく、私と彼らは学部こそ違いますが、同じ生田キャンパスで学んでいたと思われます。
キャンパスで交わることがなかった彼らと、20年後に書籍を通して交わり、強い刺激をいただいたこの奇跡を心から感謝します。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 51:食文化
感想投稿日 : 2013年1月6日
読了日 : 2013年1月6日
本棚登録日 : 2010年11月29日

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