奇跡の脳

  • 新潮社 (2009年2月1日発売)
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感想 : 109
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37歳で脳卒中を体験した脳科学者の手記。
脳科学者ならではの科学的な目線で……というものを期待してしまうと肩すかしを食らう。
できごとよりも内面の描写が多く、科学的な説明をするには文章が詩的というか抽象的すぎて、科学の言葉が少な目なのが逆にわかりにくい。
これも左脳損傷の結果なんだろうか。

最初からわりと体験記の色合いが強く、後半はスピリチュアル系の自己啓発本のよう。
訳者あとがきにこうある。
“ もしかしたら、後半の調子についていかれない、と感じた読者もいるかもしれません。でも、本書は宗教書でもなければ神秘主義の本でもありません。れっきとした科学書であり、科学者の自伝なのです。p224”

うん、ついていかれなかった。
あんまり気分が乗らなくてだらだら読んでいたんだけど、幸福や宇宙のエネルギーを語るハイな文章に引いて最後の方はほとんど飛ばしてしまった。

こういうことが起こっている最中の思考については興味深かった。
たとえば「どうやら脳卒中のようだ、助けを呼ばなければ」と気づいても適切な対処ができない。
人を呼ぶという発想がでてこなかったり、911の番号を思い出せずにじっと電話の前で考えたりする。
なるほど。思い出せる状態にないときこそ必要なんだから、110や119は目立つところに書いておいたほうがいいのかも。
自分が「カタツムリのペース」になって、周囲の騒がしさが苦痛になるという表現は『カタツムリが食べる音』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4864103011と共通していて興味深い。
周囲が気をつけるべきことも参考になる。

動けないときの妙な楽観は『昏睡Days』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4863850107や『アノスミア』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4326750510を思い出す。
こういうものなのかな。
その道のプロが武器を失うという出来事や著者の雰囲気もアノスミアっぽいかも。
この人の書き方は恵まれた人の鈍さみたいなのが見え隠れして好きになれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: バリア/バリアフリー
感想投稿日 : 2015年2月24日
読了日 : 2015年2月23日
本棚登録日 : 2015年2月23日

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