突然、僕は殺人犯にされた  ~ネット中傷被害を受けた10年間

  • 竹書房 (2011年3月22日発売)
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感想 : 52
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ネット上で10年に渡り中傷されてきた芸人の手記。
ニュースを見た覚えはあるけれど、被害の怖さや、まして告訴にこぎつけるまでの苦労なんて想像もしてなかった。

ネット用語とすら言えないようなごくごく初歩的なことまでずいぶん丁寧に説明されていて、最初はちょっとわずらわしかった。
が、読んでいくうちに、私にとっては常識以前のそれらを専門用語だと感じる人がいることがわかってきた。
毎日ネットに触っていると忘れてしまうけれど、インターネットはいまだ過渡期で、理解度にはものすごく個人差がある。言葉すら通じないくらいに。

著者はネット知識のある警察官に出会うまで、被害の大きさを理解してもらえない。
あいつは人殺しだと書き込まれ、仕事の場にまで中傷がくる被害を訴えても「ネットなんて見なきゃいいじゃん」で済まされてしまう。
膨大な量の中傷書き込みがあったから動かざるを得なかったのに、膨大な量だから処理しにくいとか言われる。
被害者の軽視というどこでも見られる意識に加えて、そもそもインターネットってなに?というレベルで話が通じない人さえいる。
年配の人ならなおさら。そして裁判官とかの偉い人はたいてい年配者だ。

読んでいて、著者はすごく誠実な人だと思った。
責任感が(ちょっと過剰なくらい)あって、怒りをぶつけるのではなく理性的に表明するよう務めている。
こういう人が身を削って周囲の助けも借りて、たくさんの情報を調べて知識を得て、むげにされても何度も足を運んで、たくさんの時間を使ってたくさんの苦労をして、いくらかの運に恵まれてようやく一斉検挙に至る。
この人のバイタリティと、知識と熱意をもった警察に当たるという幸運がなければ、なあなあで済まされてしまったであろうことが怖い。

医者や弁護士に専門分野があるように、裁判官や検事にも専門領域を作ったほうがいいんじゃないかと思った。
わかってない人が裁くなんて怖いしひどいけど、あらゆる分野に通じた人などいるはずがない。
捕まえたり裁いたりする側にもとんちんかんなことを言う人がいるのはある意味当然だ。
ど素人(裁判員)を増やすより、正しい知識をもった専門家を入れるほうが有効だろう。


この本を読んですら、「(疑惑の遠因となった)本を書いたの誰だよ中傷した奴もさらしちまえよ」と思ってしまった自分が嫌だ。
そういう問題じゃないんだよね。
それやっちゃったら中傷側と同じなんだよね。


まともに話をきいてくれない窓口の対応に、「遺言―桶川ストーカー殺人事件の深層」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/4104405019を思い出した。
信じたいことを鵜呑みにして断罪しようとする正義面の名無したちに「心にナイフをしのばせて」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/4163683607の著者を思い出した。
まず「これは被害です」ってことから説明しなくちゃいけないのは「尊属殺人が消えた日」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4480854088にも通じる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 犯罪・事件・犯罪被害
感想投稿日 : 2011年11月21日
読了日 : 2011年11月21日
本棚登録日 : 2011年11月21日

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