カタツムリが食べる音

  • 飛鳥新社 (2014年2月25日発売)
3.97
  • (8)
  • (13)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 107
感想 : 21
5

病人とカタツムリの生活。
カタツムリの観察日記のなかに、日記の書き手の日常も見える。

著者は原因のよくわからない感染症から自律神経系機能障害を発症し、寝たきりの闘病生活を送る。
ある日、見舞いにきた友人が、森でみつけたカタツムリをスミレの鉢につけて著者の枕もとに置いたところから、著者とカタツムリの共同生活が始まる。

カタツムリの生活が興味深い。
著者の目線を通して見るから、なおさら愛おしい。
生物学としての面白さに「ミクロの森」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4806714593を思い出す。

病人の手記としても良い。
大げさでなく矮小化せず、病者の気持ちがつづられる。
動けない長い時間をすごすと、どうしたって自分を考える時間が増える。
その時間に割り込んできたカタツムリは、他のことを考える時間をくれる。

はじめにカタツムリがきたころ、著者はカタツムリに興味などなかったし、勝手に連れて来られてしまったカタツムリにすまないと思う。
読んでいる私も、増やしたり自然に戻したりするのは生態系にどうなのとか思ったりするのだけれど、カタツムリの移動の歴史を知るにつれ、人間という乗り物も自然の一部なんだと思ったりする。
責任という部分とは別に、自然はそんなやわなもんじゃないと敬虔な気持ちになれる。
人間による変化も自然の変化なんだ。(ここでまた「ミクロの森」を思い出した。)

こういう受け入れは、病気の受容にもつながる。
エピグラフのひとつに「今は疑問を生きなさい」という言葉があった。
「役立たず」だから死んだ方がいいとか、動けないから生きている意味がないとか、そういう健常者中心の狭い価値観を押し広げてくれる。

これの直前に「安楽死を選ぶ」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4535983992を読んだから、余計にそう感じる。
もし著者の前に置かれたのがカタツムリではなく安楽死のパンフレットだったら。
一番つらい時に、その時点の絶望と未来予測で死を選んでしまったら、著者に現在はないし、私はこの本を読めなかった。


『家と庭と犬とねこ』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4309021883
暮らしを自然に大事にする感じが石井桃子さんにちょっと似てる。
増えるカタツムリに、戦時に増やしたヒメダカを思い出した。
あれも気を紛らわす効果だったのかな。

p38の詩は『クリストファー・ロビンのうた』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4794935196に入っていたはず。


装丁がきれい。カタツムリにちょっと食われてる。
これは中身も見た目も自分の本棚におきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然・科学・生物
感想投稿日 : 2014年4月30日
読了日 : 2014年4月28日
本棚登録日 : 2014年4月27日

みんなの感想をみる

ツイートする