NOヘイト! 出版の製造者責任を考える

制作 : ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会 
  • ころから (2014年11月1日発売)
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感想 : 10
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本屋さんのある町に住みたいから、本屋がつぶれないように本は本屋で買う。
でも正直なところ、応援したい本屋があんまりない。
個人の小さい本屋さんは軒並みつぶれてしまって、生き残っているのは新刊とベストセラーがほぼすべての、行く前から品ぞろえが想像できてしまうチェーン店ばかりが目立つ。
入ってすぐのいい場所にヘイトコーナーがあるともう買う気が失せてきびすを返す。
本がいっぱいある場所が大好きなはずなのに、本屋に行くと不快になるなんて悲しい。

という気持ちを共有できる人たちがこんなにいた!
この本は、本を作る人・送り出す人たちが、世にはびこる嫌韓嫌中日本礼賛本を憂えて集まって話しあった本。
本屋をめぐる議論はあるのに本を送りだす出版社からの発言はなかったので自ら立ち上がったとのこと。

この本を読むのはこわい世の中を再確認する作業だけど、これはダメだと危機を感じて声を上げる人たちに勇気づけられる。
作る人や売る人がそれぞれの立場で「表現の自由」を守ろうとしているのだから、私は買い手としてのありかたを考えよう。

特定の存在を貶め、価値のないものとして扱う風潮はジェノサイドのへカウントダウン。
だからそこを煽るのは社会的な責任を果たしていないってことになる。
うちは売ってるだけで別に賛同してるわけじゃないんですよなんて言い訳にならない。
で、そういう政治的倫理を別にしても、そもそも間違った内容をチェックせずに売るのは出版社の職業倫理に反する。
思想は自由だけど根拠をいつわってはいけない。きちんと事実確認をするのは出版社の責任。
国の政治を批判するのと、その国に関係する人たちを誹謗するのはまったく別の話。
なるほど。明快。

私はヘイト本がでかでかと飾ってある本屋で買うのはやめよう、と単純に考えていた。(そしたら行ける本屋がほぼなくなった)
でも、この本は(本屋は本屋の立場で本屋の倫理を考えている人が多いけど)出版する側の責任を考えている。
出版する側も賛同しているわけではないけど売れるからつくる、本屋も売れるから置く。
こんな本を売らなきゃいけない店員の葛藤なんて考えたことなかった。

書店員へのアンケートの質問項目に、ヘイト本について客からなにか言われたことがあるか、というものがあった。
びっくりした。そうか、必殺「お客様の声」で、これはおかしいと伝える手があったか。
全然思いつかなかったから目から鱗が落ちた。
「客」が嫌だと言えば、内心は売りたくない店員がやめようと言いだしやすくなるかもしれない。
そうか、できることって探せばあるんだ。目が覚めた。


ジェノサイドの段階『一冊で知る虐殺』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/456204523X
報道者の倫理『38人の沈黙する目撃者』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4791766083

これはたぶん、最近気になっていた「ナチスと企業の責任」と関連するテーマだ。
焼却炉の販売元が使用目的に気づかないなんてことがあるか?とか、自分が普通に使っていたインクはユダヤ人の腕に番号を刺したのと同じ会社のものだった、とか。そういうの。


関連
『「本が売れない」と言うけれど』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/459114223X

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 読書・出版関係
感想投稿日 : 2015年1月18日
読了日 : 2015年1月18日
本棚登録日 : 2015年1月18日

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