『顔のない顔』『移された顔』の二編。
表題作は著者初の戯曲である。
『顔のない顔』アルコール依存症の夫に顔を奪われた「わたし」。
人々の好奇と恐怖の目を弱った視力の中でぼんやりと捉えながら「わたし」は生きている。
「モンスター」と幼い子は言った。
「わたし」はそれを優しく諭す。
顔の移植などという大掛かりなものが、本当にできるのだろうか。
顔を失った「わたし」は見知らぬドナーからもらった顔だった。
だから受け入れられたのかもしれない。
しかしそれが知人、親友だったら。
戯曲『移された顔』はそれを描いている。
事故で植物状態になったリナ。
ユミは顔をなくしてしまった。
唯一大けがを負わなかったのはリナの恋人、リョウ。
リナの顔はユミに移植された。
そのことでいったい自分自身はどこにあるのか、ユミは悩んでいる。
自分自身がどんな顔だったか思い出せなくなっている、とユミは語る。
実際そうなのかもしれない。
好むと好まざるに関わらず、私たちは自分の顔を毎日見ている。
そのことで、これはわたしだと認識する。
しかし、自分の顔が全く他人の顔に置き換わってしまったら、私が私だとどうやって思うのだろう。
物語はハッピーエンドで終わる。
しかし、我が身にそれが降りかかってきたとき、ハッピーエンドになるかどうかは、誰にもわからない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2015年5月10日
- 読了日 : 2015年5月10日
- 本棚登録日 : 2015年5月10日
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