時計まわりで迂回すること - 回送電車V

著者 :
  • 中央公論新社 (2012年3月23日発売)
3.75
  • (5)
  • (8)
  • (4)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 98
感想 : 15
5

丁寧で知的な文章の中に、クスっと笑わせるところがある。思わず笑った後、普段の緊張が抜けて、優しい目元になっている私がいる。

こんな風にやわらかい香りのする文章を届けてくれる堀江敏幸氏の文章が好きだ。

「冷戦の終わり」や「さっき、なたを見ましたよ、と私は言った」など、旅先で会った人との間で起きた、時間としては短いけれど絆を感じさせる出来事。まるでそこに居合わせたかのような幸せ。

スポーツ観戦の場面になると、試合の興奮よりむしろ、堀江氏の心情や人間模様が気分を盛り上げてくれる。強くなく、薄くなく、キャンドルの灯りのような居心地の良さ。

そして日本の風景。漢字が増え、地名などの名所も日本語となってくる。穏やかな雨のような堀江氏の文体からも、雑踏のノイズが聞こえてくる。

本を閉じ読書を終えて「また堀江敏幸を読もう」と、う一度優しい表情を浮かべながら日常に戻るのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Littérature
感想投稿日 : 2012年5月8日
読了日 : 2012年5月8日
本棚登録日 : 2012年5月8日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする