豆の上で眠る (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2017年6月28日発売)
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元気で外遊びが大好きな小学一年生の結衣子と病弱で読書が大好きな小学三年生の万佑子はとても仲良しの姉妹だ。
姉の万佑子はいつも眠る前に妹の結衣子に色々な絵本を読んであげていて、結衣子の一番のお気に入りは「エンドウ豆の上に寝たお姫様」というアンデルセンの童話だった。
そんな姉妹を引き裂く姉の万佑子の失踪事件、そして二年後に無事に戻って来た姉の万祐子だけれど、妹の結衣子は違和感を感じずにはいられなかった。戻って来てくれてとても嬉しい、けれど戻って来たのは本物の姉なのだろうか?本当に大好きだったあの姉なのだろうか?その疑惑は結衣子が大学一年生になった今でも心の片隅に潜んでいる違和感だったー

私がこの本で初めて知った「エンドウ豆の上に寝たお姫様」は、あるお姫様がベッドの下に置かれていた小さなエンドウ豆の違和感に気が付き、こんな小さな違和感に気が付くという事は本物のお姫様の証しだと讃えられ、王子様と結婚をして幸せになる、という非常に奥が深い物語で、小学一年生の結衣子がこの物語を気に入っていたという設定がストーリーの重要なキーポイントとなっている。

小学一年生の結衣子と小学三年生の万佑子が夏休みの時に悲劇が訪れる。病弱で外遊びなど殆どしない万佑子が、珍しく結衣子が夢中になっていた秘密基地作りに興味を示して、二人は一緒に外へ遊びに行き、疲れた万佑子がもう帰ろうと提案した時に結衣子は他のお友達とまだ遊びたくて一緒に帰る事を断り、万佑子は一人で家に帰る途中に忽然と姿を消してしまったー

心配する両親、近所の人達、そんな中であの時一緒に帰っていれば…と後悔と不安に駆られる結衣子。事件と事故と両方で捜査が始まるのだけれど、事件である事は明らかで万佑子がどんな酷い目にあっているのかと想像するだけで胸が締め付けられた。

捜査に進展はなかなか無く、姉妹の母親である春花は独自に捜査をし始め、犯人探しに妹である結衣子を利用するまでになる。五年間行方不明だった女の子が家の近くで監禁されていて無事に保護されたという事件があってからは、ますます万佑子も近くで誰かに監禁されているのだという考えを払拭する事が出来ず、不審な人物の家に結衣子を猫を探していると嘘をつかせて(結衣子は始めは嘘だと感じていなかった)訪問させるという極めて危険な事をさせていた。始めは母親の真意に気が付かなかった結衣子だけれど徐々に自分が母親に、姉の万佑子探しに加担させられているのだと気付き始める。そして自分はこの家の本当の子供では無いのではないのかと小さな胸を痛め、姉の万佑子ではなく自分が居なくなれば良かったとまで思う様になってしまう。大人達の勝手な都合や思いや嘘で結衣子はどんどん傷付き、自分の違和感が正しかったのだと知った時には虚しさでいっぱいだっただろうと感じた。

あんなに大好きだった姉がすり替わっていた事に大人達は結衣子が気が付かないと本当に思っていたのだろうか?或いは傷付かせない為に嘘をついていたのかもしれないが、真実を知る権利は小学生の結衣子にもあったはずだ。本物や本当が大切なのではなく真実が重要なのだから。

結衣子の視点で展開するこの物語を、母親の春花の視点で読むとどうなるのだろうかと考えさせられた。真実を知った後の母親の春花の思いが描写されていなかった事が更に哀しみを助長させた。



読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月19日
読了日 : 2017年8月19日
本棚登録日 : 2017年8月19日

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