スティーブ・ジョブズ、バラク・オバマ、小泉純一郎……彼らはスピーチで世の中を変えた。発想や施策がどんなに優れていても、人々に伝わらなければ世の中は動かない。逆にたいしたことでなくとも、伝え方によっては世の中を動かすことができる。彼らには優れた(若しくはたいしたことのない)発想を伝えるだけのスピーチの力があった。聴衆を惹きつけ、世界を変えるスピーチの力が――。
一方で、世の中は響かないスピーチで溢れている。校長先生による運動会の開会宣言、参列した披露宴でのエライ人の挨拶(大きな声では言えないが)。わたし自身もこれまでに何度か人々の前でスピーチや挨拶をする機会があったが、響かないスピーチになることもあれば、するすると言葉を紡ぎ伝わるスピーチができたことも(片手で数えられるほどだが)あった。その差は何なのかと頭を悩ませていたときに出会ったのが、この作品だ。
主人公、二ノ宮こと葉は、幼なじみの結婚式で衝撃的なスピーチに出会う。その言葉を紡いだのは妙齢美女の久遠久美。スピーチライターという聞きなれない職業の女性。開始2時間の披露宴の、だらけた空気を一瞬にして変えてしまったマジックのような言葉の力に、これまでにない熱量の好奇心が湧いてきて、こと葉は久遠久美に弟子入りすることになる。
こと葉は、同僚の結婚式で人生初のスピーチを披露。その後、本格的にスピーチライターの仕事に足を踏み入れたこと葉に舞い込んできた仕事は、政権交代を目指す野党のスピーチをつくることだった。
スピーチライターという聞きなれない職業をテーマにした、所謂「お仕事小説」。22万部を突破し、WOWOWでのドラマ化も決まっているが、エンターテインメントとしての小説の魅力だけではなく、新しい世界に飛び込む勇気をくれる、さらにスピーチのノウハウも学べる、言葉の偉大さ、伝えることの大切さを教えてくれる、最高の読み物だ。少なくともわたしにとって、このタイミングでこの小説に出会えたことは運命だった。
- 感想投稿日 : 2017年5月8日
- 読了日 : 2017年5月8日
- 本棚登録日 : 2017年5月8日
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