明日の食卓

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2016年8月31日発売)
3.73
  • (67)
  • (184)
  • (143)
  • (14)
  • (3)
本棚登録 : 1127
感想 : 184
5

「イシバシ」“ユウくん”への虐待シーンから始まる本書は、多くのことを考えさせられる作品だった。

専業主婦の石橋あすみ, フリーライターの石橋留美子, シングルマザーの石橋加奈。
全員の共通点は、苗字が「石橋」であることと、“ユウ”という8歳の息子がいること。

冒頭のシーンで虐待されてしまっているのはどの“ユウくん”なのかを考えながら読み進めていく。
どの家族も、小さな問題こそ抱えているものの、親子関係については至って順調で、幸せそうな印象を受ける。

しかし、途中から、それぞれに家庭の綻びが出てきて、親子関係や夫婦関係の雲行きが怪しくなり、「もしかしたら、“ユウくん”は3つの家庭全員のユウくんではないのだろうか?」という思いも過った。

この点の落とし所や最後のタネ明かしは、ミステリー好きな私も面白く読むことができた。

けれども、それよりも、この3つの家族の描写や、それぞれの家族の話に登場する別の家族の描写が、何より印象的で心に訴えてくる。
どの描写も大袈裟ではなく、程良いリアリティーがあるから、自分に子どもがいるわけではないのに、それぞれの母親の気持ちや行動を疑似体験している気分になる。
そして、絶望的になる。

子育ては闘いだ。
母親と子どもの。
父親と子どもの。
母親と父親の。
母親とママ友の。
時に、祖父母と子どもの。

本書に散りばめられた多くの子育ての問題を、私もこれから否応なく経験していくのだろうか。
その時、自分一人の力で闘い切れるだろうか。
人を一人育てることが、こんなにも葛藤の多いことだったなんて、深く考えたことはなかった。
子どもを産み、育て上げることへの責任感を独身女性でも感じることのできる、小説というジャンルでは括り切れない、とても良い≪作品≫だった。

もし、これから自分に子どもができたとしたら、出産する前に再読したい、そんな風に思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本2016
感想投稿日 : 2016年10月6日
読了日 : 2016年10月6日
本棚登録日 : 2016年10月6日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする