棋士の一分 将棋界が変わるには (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA (2016年12月10日発売)
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感想 : 12
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「はっしー」の愛称で知られる棋界屈指のパフォーマーにして、様々な発信力を持った人気棋士?による棋界への苦言というか怒りのぶちまけといったところでしょうか。
割と読みやすく、直近の問題でもあるだけに、すらすらと読めました。
彼は良くも悪くも棋界を超えて世間を賑わせることも多く、2年前にはNHKテレビ将棋トーナメントの準決勝であろうことか二歩で反則負けになるという大失態をやらかしていて、何かにつけて話題のタネになる人物です。
本書は、三浦弘行九段への将棋ソフト使用疑惑事件の真っただ中に刊行されており、その後の第三者委員会による検証にてクロの証拠はないと結論付けられる前の時期のもので、はっしーは事件当初にツィッターでボロクソに三浦九段を非難した後の刊行だったこともあって、当時は割と注目された新書だったともいえますね。

本書は棋界の問題点を累々と書いた内容ですが、読んでみてわかったのは、彼は奇抜な身なりや言動などで注目されてはいるものの、内面は実にナイーブで、棋界の将来を真剣に憂いており、「斜陽産業」となりつつあるという棋界の生き残りについて真面目に考えているということでした。
将棋しか知らない天才たちには逆に棋界の現状を変えようという意識は薄く、何とかしなければならないとはっしーがもがくほどに孤立感を深めるといった図式のように思いました。人を喜ばせようという面でキャラ立ちし過ぎているので、損をしている部分も大きいのでしょうね。

なかでも本書で最も警鐘を鳴らしているのが、将棋ソフト使用疑惑事件で一気に世間にまで表面化したコンピュータ将棋ソフトと棋士とのかかわり方です。
もともとコンピュータ将棋ソフトと人間である棋士が戦うことに大反対であったというはっしー。今ではコンピュータ将棋ソフトが人間である棋士の実力を大きく超えてしまったことにより、人間同士によるプロ将棋の勝敗に興味を持つ人がだんだんといなくなるのではないか?スポンサーも棋戦主催から手を引いていくのではないか?という危機感を持っているということです。
はっしーは言います。相撲やプロ野球で機械と戦うことがあるのか!人間が負けるに決まっている!人間同士だからできる勝負の駆け引きがある!と。
まあ、私も正直なところ、事ここに至ってはコンピュータ将棋ソフトと棋士が戦う意味は何もないと思いますが、力勝負の競技と違い人間以上の知能を持った存在などこれまではいなかったので、ゲームとはいえ、人間を凌駕するほどになったコンピュータとの対決は一定の意義はあったのではと思っています。
ただ、はっしーが言うように、対局の解説にコンピュータ将棋ソフトの評価値を出すのは不快なことだと思いますし、コンピュータ将棋ソフトの指し示す手が重視されるようになると、棋譜の均一化や挙げ句に不正行為に結び付いても不思議ではなく、棋界が衰退の方向に向かうのでは?という危惧を抱くのも当然なことのように思います。
今後は、棋士がコンピュータ将棋ソフトと公式に戦っても人間が勝つ見込みはほぼないので、このような対決イベントは早く収束させ、人間同士の対局を盛り上げることに力を注いで欲しいものです。
また、このようなコンピュータ将棋ソフト対人間棋士の図式を描き、今日まで導いてきたのは、故・米長邦雄将棋連盟会長の金もうけの「私利私欲」から始まったことだとはっしーは断罪していますが、これが真実かどうかはわかりませんが、人間性においても棋界への貢献においても功罪の両極端のブレが激し過ぎる人物だっただけにさもありなんという気もあります。
今日の将棋連盟の路線の大枠を故・米長邦雄会長が引いたのは事実であり、棋界を体質を変えようとするなら、まずこのあり方から見直すべき時であるのかもしれません。

現在はっしーは順位戦B級1組であるものの、以前のような力は無くなってきているようにも感じられますが、A級へのカムバックとタイトルの獲得を果たして欲しいものだと思います。がんばれー!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2017年9月30日
読了日 : 2017年9月30日
本棚登録日 : 2017年9月30日

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