この世界の片隅に (上) (アクションコミックス)

著者 :
  • 双葉社 (2008年1月12日発売)
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本棚登録 : 3236
感想 : 309
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広島で生まれ、望まれて呉に嫁いだすずの日常を描く。時は太平洋戦争のさなか。空襲にさらされ、物資は不足。それでもすずの心は、戦争一色に塗り込められてはいない。絵を描く喜び。夫の昔の恋を知ってしまった痛み。思いを寄せた同級生との再会…。だが、そんな日々が一変する時がやってくる。
主人公のすずがとても魅力的。おだやかで暖かく、胸に沁みるような物語である。余白がとても豊かで、読み返すたびに新しい発見がある。読み返すたびに心動かされる。
さて、本書の見どころのひとつが、戦時下の暮らしが丁寧に描かれていること。だが戦争そのものについての人々の思いは、賛美にしろ批判にしろ、ほとんど出てこない。考えてみれば、たいていの庶民にとって戦争とは、ただ順応するしかない、否応なしに与えられた環境だったのだろう。しかしこれほどの状況下で文句のひとつも出てこないこと自体、とても恐ろしいことだと思う。
本書は反戦を叫んではいない。戦争による極限の悲劇を描いてもいないし、平和の尊さを説いてもいない。ただ、どんなときも前向きに、まっとうに生きている人々を描いているだけだ。そして読み手は、彼らを愛おしく思わずにいられない。普通に生きられる日々の大切さを、感じずにはいられない。
物語は終戦で幕を閉じる。この愛おしい人たちがその後も幸せに、まっすぐに生きていったであろうことを、心から願う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マンガ
感想投稿日 : 2010年12月5日
読了日 : 2010年12月5日
本棚登録日 : 2010年12月5日

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コメント 1件

Meninaさんのコメント
2010/12/08

このコメントを読んだだけであらたな涙がにじみました…。

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