終末思想に囚われて採石場跡を地下核シェルターにしてしまった主人公とその乗組員になった昆虫屋の男、サクラの男女二人組が侵入者達と繰り広げるシェルターを巡った心理戦。現代版ノア箱舟。
安部公房にしては読みやすい(例えば「箱男」や「砂の女」より)。独特のシュールな味もあり、ストーリーの盛り上がりもあり、哲学的な結末も分かりやすく着地している。深読みしたいと思えば深読みできるし、そうでなくても単純に読んでいて楽しいのは各キャラクターがたっているからだろう。主人公の妄執っぷりは無様で憐れだし、昆虫屋は信用できると思いきや女を巡って主人公と争うし、サクラ二人組は胡散臭そうで実は頼もしかったりするし、父親のクズっぷりや侵入者達の組織のバカらしさも印象深い。
ラストシーンはつまりシェルターの内と外の区別がつかなくなったということだろうか。ひきこもりの消極的解放。というより解放の末の空虚。それはそれで一つの病理――もっと言えば現代病だという気がする。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2013年8月3日
- 読了日 : 2013年8月3日
- 本棚登録日 : 2013年8月3日
みんなの感想をみる