この作品のミソは、代々「櫻の園」を上演してきたが11年前の不祥事により上演禁止になっているという設定で、つまり作中の名門女子校で「櫻の園」を再演するということは、「革新」ではなく「伝統への回帰」ということになる。
作中でいみじくも保守派の教頭に「生徒が伝統を作る」のではなく「伝統を守り通すことで生徒になる」と言わせているが、主人公らがやったことはある意味「本来の伝統」を守ったことになるわけで、特に中途転入生で「異分子」である主人公は「櫻の園」を通して本当の櫻華学園の生徒になる、という物語構造となる。つまりこの作品には実は対立構造がない。旧支配階級の貴族の没落と新興ブルジョワの台頭を描くチェーホフの「桜の園」とは似て非なるものなのである。
決定的な葛藤や対立がないため、展開はすべて予定調和ないしは中途半端にならざるをえない。幼少時から英才教育を受けていたヴァイオリンを断念したという主人公の過去もストーリーに生かしきれていない。当初主人公と対立関係にある優等生は、主人公との葛藤が描かれないまま勝手に一方的に変貌してしまう(学校側の脅しにより一度上演を断念した主人公に上演断行を迫る場面はあまりの唐突さに失笑してしまった)。11年前の演劇部長で上演に反対していた教師が唐突に心変わりするのも謎(キャストの菊川怜が大根で台詞にない心理を出せていないせいもある)。とかく人間関係や人間心理の「変化」を描けていない。
文句ばかり書いてしまったが、全体像を考慮せずに個別のシーンだけを切り取ってみれば、演出は悪くはない。女の子の芝居の水準は総じて高いので、一種のイメージビデオ的に観るならばそれなりの満足は得られる。
- 感想投稿日 : 2014年12月2日
- 読了日 : 2014年12月1日
- 本棚登録日 : 2014年12月2日
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