セント・メリーのリボン (新潮文庫 い 40-2)

著者 :
  • 新潮社 (1996年1月1日発売)
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本棚登録 : 82
感想 : 11
5

確か、何年か前、病気でお亡くなりになった作家の作品。つまり、この人の作品は増えることがないということ。なかなかファンも多かった作家だけに、残念です。わたしも、今回読んでファンになりました。

さてこれは「焚火」「花見川の要塞」「麦畑のミッション」「終着駅」「セント・メリーのリボン」の5作が入った短編集です。
あとがきに「男の贈り物を共通とする主題とした」とある作品集だけに、それぞれの作品で確かに様々な贈り物が出てくる。


「焚火」ではやくざに追われる主人公の男に、焚火をしていた老人から焼きたての芋とハムが。
「花見川の要塞」ではフリーカメラマンの男が、ある日花見川付近で見かけた老婆と少年から、第二次世界大戦中のある作戦に参加できるというプレゼントが。
「麦畑のミッション」では同じく第二次世界大戦中、今度はイギリスで暮らす少年の元に、その父が自分の乗る爆撃機を着陸させるクリスマスプレゼンとを。
「終着駅」では東京駅で赤帽をしている弟から、やくざから奪った億単位の金が詰まったボストンバックが。
「セント・メリーのリボン」では、全盲の少女に盲導犬が。

全てどこか懐かしい、少年の日の田舎の空気が漂う、最後はほんのりとした気持ちになる作品ばかりです。
この作者が狩猟をする人らしいので、その影響ででしょう。狩猟を行う登場人物が多いこと、そして犬が主人公に匹敵する重要さで出てくる場合が多いことが特徴的。
わたしは短編は食い足りなくてあまり好きではないのですが、この中で「花見川の要塞」「セント・メリーのリボン」がお気に入りです(それ以外はいかにも短編といったかんじで、少し最後が物足りない感じがしたのです)。

どちらかというと都会育ちの若者によりは、田舎に育った年輩の人とかの方が、この作品に漂う雰囲気は懐かしく感じ、切ない気持ちになれて、いいのではないかと思います。もちろん若い人でも、ハードボイルドな主人公の男気を感じるにはいい作品です

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ハードボイルド
感想投稿日 : 2015年7月25日
読了日 : 2000年4月29日
本棚登録日 : 2015年7月25日

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