すでに取り返しのつかなくなった夫婦が、本当に取り返しのつかない状況に陥る。妻が死ぬ。愛のなさがゆえに悲しみを抱くことすらできない、という後悔すら意味をなさない状況で、残された夫たる《ぼく》は、縁あってかつての同級生だったという大宮陽一の家に通い、留守をつとめ、大宮家の二人の子と心を通わせることになる。
けれど《ぼく》が取り戻すのはまっとうな幸福ではない。遅すぎた妻への愛情などでは決してない。
物語の始めから終わりまで《ぼく》は醜い言い訳を、繰り返す。けれどその言葉の質は少しずつ変わっていくのだ。ただ言い逃れしようのない《愛するべき日々に愛することを怠ったことの代償》のなかで、この先も永遠に続くであろう言い訳が、いつか真摯に、誠実に語られる日が来ることを願う。
クズな僕たちはそんなふうにして生きていくほかないのかもしれない。
読書状況:読み終わった
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motoiの本棚
- 感想投稿日 : 2016年12月22日
- 読了日 : 2016年12月22日
- 本棚登録日 : 2016年12月3日
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