ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2)

著者 :
  • 早川書房 (2010年12月8日発売)
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感想 : 1004
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人間が病気で死ぬことがなくなった世界。WhatchMeと呼ばれる監視機構により体内のバランスは常に監視され、健康な状態を維持される。また、社会全体として、リソース意識なる言葉で、自分の健康に気を使わないのは、非道徳的であるという価値観が蔓延している社会。真綿で首を占めるように自らを律するそんな社会に違和感を覚えた三人の少女は、自殺を決行する。その結果、ミァハは亡くなり、トァンとキアンは生き残った。大人になった二人は…

人間とは何か。完璧な社会とはどんなものか。これをとことんまで突き詰めた作品。主人公トァンの一人称視点で話が進むためか、一見平和で幸福な社会に見える監視社会も人間を無理矢理、理想郷に押し込んだためか、奇妙な軋轢と苦しみに満ちているように感じられる。

読んでる最中は、中盤の全世界への脅迫とかつてのミァハの姿が重ならず、納得がいってなかったが、ミァハの過去に触れ、本質を知るに連れて、その思想の流れが理解できるようになった。

人間はどこまで人間なのか。SFでは、まま見られるテーマだが、今作のこれはインパクトのある結論だった。完璧な社会には、人間の意思は不要である。寧ろ、邪魔をするのみである。人間は、意思を捨て、動物を辞めることで、完全な調和を持った理想的な社会を実現できる。
実に気持ち悪い結論ではないか。福祉国家の極致が、社会主義の極致と一致するのは、よく考えてみれば理解できることである。
ミァハは、意思無き人間を当然のように受け入れられるが、私のような一般人には思い浮かばない発想だ。後書きの筆者のインタビューにて、今の私の思い描く世界の極致はこれが限界だとある(少し違うかも)。出来れば、この作者が次に描く世界にも触れて見たかったが、残念ながら、この作者は今はもういない。残念でならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2013年4月15日
読了日 : 2013年3月8日
本棚登録日 : 2013年4月15日

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